さっちゃんはオトコたらし。~スパダリ幼馴染の甘々調教からは逃げられない~

第4話 噂の彼

昔から正義感だけは人一倍強かった私は

その姿を見るたびに『ちょっと!叶人くんにまた意地悪したでしょ!』と、彼の前に大きな壁のように立ちはだかって

男の子たちを追い払っていたものだ。

『私がずっと叶人くんを守ってあげるからね!』

ヒーロー気取りで彼の小さな手を引き

夕焼け小焼けの道を歩いていた日々が、昨日のことのように懐かしく思い出される。

いつしか、その「守ってあげなきゃいけない存在」に対して

恋という名の特別な感情を抱いていることに気づいたけど

彼が親の都合で上京し、遠く離れてしまってからは、自然と連絡も途絶えてしまった。

私の初恋は、実ることも、伝わることもなく

思い出のアルバムの中にそっと仕舞い込まれたはずだった。

(あの泣き虫で、私の後ろに隠れて泣いていた叶人くんが、営業のエース?スパダリ?)

私の記憶の中の叶人くんとは、全く結びつかない。

頭をよぎるのは、いつも涙目で鼻を赤くしていた10代の彼の弱々しい残像だ。

どう考えても、完璧超人のワードとは1ミリも噛み合わない。

(……うん、やっぱり私の考えすぎ。ただの同姓同名の別人よ)

自分に言い聞かせるように、心の内で何度も強く呟き

トントンとわざと大きな音を立ててキーボードを叩いた。

そうだ。

噂なんて、往々にして大袈裟に膨らむものだ。

現にこの私だって、社内の一部では「いつも冷静で、仕事ができて、私生活でも経験豊富な大人の女」

なんていう、身に覚えのない尾ひれがついた噂をされている。

中身を開けてみれば、彼氏もできたことがない

家で干物のように過ごしているただの地味女なのに。

10年という歳月や、人の口というフィルターは平凡な人間すら大物に変身させる魔力がある。

きっと、今回もその類だ。

そうやって無理やり心の嵐を鎮め、いつもの日常に戻ろうとしていた

そのときだった。

「あ、噂をすれば!噂の黒崎さん、来たよ!」

同期の弾んだ歓声がオフィスに響くと同時に、正面の自動ドアが静かに滑り開いた。

つられるようにして、私も、そして部署内のほぼ全員が入り口へと一斉に顔を向けた。

その瞬間、私の思考は完全にフリーズした。

視界に飛び込んできたのは

仕立ての良いネイビーの高級スーツを寸分の狂いもなく完璧に着こなした

驚くほどスタイルのいい男の姿だった。

「初めまして。本日よりこちらの営業部に配属となりました、黒崎叶人です。前部署での経験を活かし、一日も早く皆さまのお力になれるよう努めます。どうぞよろしくお願いいたします」

低く、心地よいビブラートを含んだ、大人の男の落ち着いた声。
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