俺様鉄面皮上司が偽装彼氏になりまして。
「……そうだな」と手元にある灰皿に触れ、上司は、「相手がああいう相手だから、きみにはしばらく守ってくれる彼氏という存在が必要なのかもしれない。怒らせると面倒だからな。釘を刺しておいたから、大人しくはしてくれていると思うが、念のためだ」
 あの夜、上司は、あたしをお姫様抱っこして歩いてタクシー乗り場へ行き(駅前の大行列に並ぶみなさんにぎょっとされ、酔っ払いに、いよっおふたりさん! と囃し立てられても構わずに)、あたしの自宅アパートに立ち寄ると、眠るまでを見守ってくれていたのだった。
 仕事を通じてある程度上司の人間性は分かっているつもりだった。職場って案外、人間が出るから。
 八つ当たりしがちなひとは家庭内でも怒鳴り散らすし、ことが思うようにいかないと必ず切れる。
 一方この上司は、どんなトラブルに見舞われても、眉一つ動かさずに、淡々と片付ける。火事場であっても落ち着き払って対処する、まさに、黒い消防隊。
 いつも黒スーツなのは、判断に迷わないため。時間をロスしないための戦術。
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