敏腕CEOと契約結婚したら、攻略不能なほど溺愛されています
 想像した私がバカだった。〝地獄〟のような未来しか思い浮かばず、自然と全身が震えてくる。

「まさか、育ててやった恩を忘れて、親を見捨てるのか?」

 じりじりと父が距離を詰めてきたため、無意識にあとずさったのだけれど、すぐに建物の壁に背中がついてしまった。
 なんとかすり抜けて逃れようとしたが、父が壁に手をついて行く手を遮ってしまう。

「もちろん感謝してるよ。わかったから。お父さん、やめて」

 かすれた声で訴える私に、父は手の平を上に向けて右手を差し出してくる。

「カネ、今持ってるなら渡せ。……早く!」

 ビクッと肩を震わせた。こんなふうに恐喝まがいなことまでするなんて……。
 自分の娘じゃなくて、ただの〝都合のいい存在〟みたいに扱われたことが、たまらなく悲しい。

「倉科さん!」

 離れた場所から名前を呼ばれたことに気づき、うつむいていた顔を上げる。するとこちらへ走り寄ってくる京極さんの姿が見えた。
 この場に彼が現れたら、おおごとになって収拾がつかなくなる。私はすばやくバッグから封筒を取り出して父の手に握らせた。
 グッズを売ってつくったお金だ。

「お金、今これしかない。知り合いに見られたから早く行って」

 私はあわてて父の背中を軽く押し、立ち去るように促す。今の父なら、この場に現れた京極さんに向かって悪態をつくかもしれない。そう思うと、会わせたくなかった。

「俺はしばらく帰らない。カネはまた用意しとけ」

 現金を渡した途端、父はそれを雑にポケットへしまい、一方的にそう言って足早に去っていった。
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