空に吹く、風の音を教えて。
と、次の瞬間だった。


ーードタッ…。


え?

な、何?

嫌な予感がした。

目を開けたくなかった。

けど、恐る恐るひっつきそうになっていたまぶたをこじ開けた。


「やし、ろ…くん…?」


何が起きているのか一瞬分からなかった。

彼の真横を次々と選手たちが過ぎ去っていく。


「やっ、やしろん…」


光莉ちゃんが泣きそうな声で、というかもう少し泣いていたと思う。


「やしろーん!だいじょーぶだよ〜〜!ナイスファイトーー!」


鼻水混じりの掠れ声で光莉ちゃんは叫んだ。


「ってか、絶対後ろの3年煽ってたよな」

「スポーツマンシップなってなさすぎだろ」


目を瞑っていたから真相は分からないけど、ただ転んだんじゃないってそれだけは分かった。

どんな状況だったにせよ、

ここまで一生懸命走ってくれて

私たちに希望を与えてくれて。

そんな弥代くんを責められないよ。

むしろ、もっと讃えられていい。

これだけ頑張ってこんなラストなんて、

そんなのあんまりだ。

こんなの…

こんなの、

許せない。


私は握っていた手を口元に持ってきてメガホンを作った。

全部、

全部全部、

届け。

いっぱいいっぱい空気を吸って


「弥代くん!」


名前を叫んだ。

試合終了の放送が流れ出す。

弥代くんが私を見た、

気がした。


…終わりじゃないよね?

…分かってるよね?

…まだ、行けるよね?


「勝手に試合終了させないでくれますー?」


弥代くんがそう言って立ち上がる。

よろめきながらも真っ直ぐ前を向いて歩く。


「頑張れ!」

「頑張れ、やしろーん!」

「あとちょっとだよ!」

「弥代、かっこいいぞー!」


みんなの声援を一身に受け、弥代くんは走り抜けた。


「もう二度とこんな不正試合がないように、心を入れ替えて来てくださいね、どこかの誰かさん?」


渾身の嫌味がグランドの真ん中で解き放たれた。

その時の弥代くんの顔は

私の好きな

あの不敵な笑みだった。
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