空に吹く、風の音を教えて。
それからというもの、浅羽くんは毎日和実ちゃんの家にいって説得を試みた。

それに証拠写真を校長先生に直接見せに行って告発し、いじめっ子を制圧した。

そんな浅羽くんの献身のお陰で和実ちゃんは教室に戻ってくることが出来た。

それが小5の5月末の出来事。

私が浅羽くんの転校を知ることになったのは、それから1ヶ月半が経った七夕の日のことだった。


「浅羽くんですが、お父様の転勤の都合で1学期いっぱいで転校することになりました」


そう担任の先生から淡々と告げられた。

その頃には浅羽くんが私のことをほずみん、私も浅羽くんのことを“昊くん”とあだ名で呼ぶくらいには仲良くなっていた。

だから、やっぱりショックだった。

和実ちゃん以外の女子とはあまり話せない私が男子と、しかも私とは真逆の太陽みたいな人とやっと話せるようになったというのに、あっさりいなくならないでよって思ってた。

そして、浅羽くんが登校する最後の日の前の日。

事件は起こった。

私がランドセルに入れた教科書の最終確認をしていた時、背後から声をかけられた。


「ほずみん」

「ん?何?」

「明日の放課後…その、話したいことがあるから、神社に来てほしい」

「えっ?」

「そそ、そういうことだから!絶対来て!」


浅羽くんは漆黒のランドセルを激しく揺らしながら教室を後にした。


私はその日あんまり良く眠れなかった。

明日で浅羽くんがいなくなる。

私は浅羽くんに何を言われるんだろう。

私は浅羽くんに何て言おう。

今までありがとう。

離れていても友達だよ。

…いや、違う。

そんなありきたりな言葉じゃ伝わらない。

私は、

私なら…。

なんて一生懸命に考えたというのに。


約束の神社。

16時をいくら過ぎても浅羽くんは現れなかった。

私は膝を抱えて御神木の根元に座り込んで3時間待ち続けた。


「絶対来てって言ってたよね…」


私は砂利を蹴り、全速力で走って家まで帰った。

胸を埋め尽くす複雑な感情のひとつひとつを振り切るように。

必死に、

ただひたすらに、

走っていた。
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