空に吹く、風の音を教えて。
「保泉さんが頷いたら、抱きしめるつもりだった。抱きしめたかった。オレが悲しい顔してたって言ったよね?
…そりゃ、そうだよ。1番見てほしい人だから。本当は自分で誘いたかったし、オレがギター弾いて歌ってるとこ、最前列で見てて欲しかった。
だってさ…こんなにも、好き、だから」

「う、そ…」

「オレ、こういうことには嘘つきたくないんだよね。マジだから。それだけ、覚えてて。後は、もう綺麗さっぱり忘れていいから。保泉さんの好きに選んで好きなもの掴み取って、生きて。オレはそれを見守ってるから。
…ってことで、こんなところにいてもしょうがないから、帰ろ。…送ってく」

「え?ちょ、ちょっと…!」


弥代くんはギターケースを背負うとそのまま大股で歩き出した。

まるで逃げ出すように。

…いや、違う。

背中震えてた。

泣いてるんだ。

泣いてるの、見られたくないのかもしれない。

でも、だからってこのまま見送るなんて、そんなこと出来ない。

でも、ここで一生懸命走って追いかけても違う気がする。

私、間接的だけど、弥代くんのこと振っちゃったし。

…違う。

違う。

振ってなんていない。

まだ何も終わってないし、始まってもいない。

まだ私の気持ちちゃんと伝えられてない。


「弥代くん、待って!」


慌てて追いかけてドアノブに手をかけた弥代くんの背中に向かって叫んだ。

弥代くんは俯いたまま。

でも、手を離した。


「弥代くん、今までずっと…ずっと、私の歩幅に合わせて歩いてくれてたでしょ?私が鈍いから迷わないようにちゃんと道標を示してくれてた。私、ほんとに救われてたんだよ。弥代くんがいてくれなかったら私…」

「それ以上、言わないで。勘違い、するから。保泉さんにとってオレは1番大事な存在だって。そしたら、止まらなくなる。もっとオレを、オレだけを見ればいいって思っちゃう。歪んでるって、重すぎるって、分かってる。だから、その全部音楽にぶつければいいって思って無我夢中で弾いて歌って。
今日、来なくて良かったよ。オレ史上さってーな演奏だったから」

「そんなこと、ない…」


そう呟いたのはいいけど、見ても聴いてもいない私に確証なんてなかった。

でも、これまでの弥代くんを見てれば分かるよ。

真っ直ぐ歩いて来たんだから、間違ってなんていない。


「もう、いいだろ。帰ろ」

「帰る前に、歌聞かせて。誰もいないし、いいよね?」

「そんなに聞きたいわけ?」

「うん。聞きたい。聞きたいです。聞かせてください」


弥代くんはあーあ、と言ってから天を仰いだ。


「んじゃ、1曲だけ、特別に」

「ありがと。心して聴くね」


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