記憶障害の男と写真家の恋♡消せない過去
愛斗は真っ直ぐに文を見据え、胸元を掴むようにして話していたが、すぐに手を引き離した。
「やめて、何してんの」
「ふみちゃん、昨日何度注意したと思ってんの」
「え、私たち恋人同士なんだから別にいいじゃない。あ、もしかして嫉妬? 自分に彼女がいないからって、嫉妬してんの? 童貞なんだ」
「ふみちゃん、もっちゃんに謝ってよ」
「ふみは悪くないもん」
「あんた、最低だよ」
愛斗はふみを伴い、貞夫と共にその場を逃げるように立ち去った。
それからすぐ、ふみは愛斗の背中にぎゅっと抱きついた。
「大丈夫だった? 何もされてないよ。連絡する前に、いきなり襲われそうになっただけだから」
「わかった
愛斗が話していると、そこへカメラマンとスタッフが声をかけてきた。折しも取材の時間となり、愛斗は予定通り話を聞かれることになった。一通り質問に答え、撮影も終わると、三人は少し話し込んだ後、愛斗の記念に焼肉を食べに行くことにした。
事前に予約を入れていた店へ着くと、三人は個室へ通された。テーブルには次々と肉が運ばれ、文が鉄板の上で丁寧に焼き、三人で分け合って食べる。
「愛斗くん、取材おめでとう」
「ありがとう」
「愛斗くん、イケメンなんだからきっと1面に載るよ」
「うん、楽しみだな」
他愛もない話をしながら焼肉とご飯を味わい、会計を済ませて店を後にした。
それから一ヶ月が過ぎた。愛斗が掲載されるはずの無料情報誌『ちくの山』が発行されると、文は街の店を回り、二十冊以上も手に入れて帰ってきた。
家に着くなり、愛斗と貞夫を呼んで三人でページを開いた。
だがふみの顔から一瞬で笑顔が消えた。
そこには、「みんなから愛される店『中華もっちゃん』」と大きく書かれ、店主・茂山幸輝の姿が堂々と一面を飾っていた。
愛斗の姿はというと、隣のページの一覧欄に小さく名前と写真が載っているだけだった。
「俺、もっちゃんよりずっと小さいな……」
落胆を隠せない声が漏れる。
「カメラマンの見る目がなかっただけだよ。愛斗くん、すごくかっこよく撮れてるから」
「ありがとう」
「うん」
ふみは笑顔で愛斗をなぐさめたが、愛斗はその前では平気なふりをしていても、心の奥底では深く落ち込んでいた。
ふみはそっと台所へ向かうと、幸輝が載っているページを金のタッパーの中に入れ、マッチに火をつけた。炎が紙面を舐めるように燃え上がる。
「こんなところに載るのは、あなたじゃないでしょ」
くすりと笑いながらつぶやくと、幸輝の写真が印刷されたページは跡形もなく灰になった。その後、文は愛斗が掲載されたページだけを丁寧に切り取り、自分のノートに貼りつけた
「愛斗くんのほうがイケメンなのに」
ふみはまだ手元に残っていたもう一冊の雑誌を取り出すと、黒いペンを握り締め、一面に大きく載った幸輝の顔を隅から隅まで塗りつぶしていった。真っ黒になった上から、「バカ」「クズ」「ナルシスト」と次々に書き殴り、ようやく胸のつかえが少しだけ下りたような表情を浮かべた。
それから二人はコンビニへ向かい、買い物を済ませると、そのまま幸輝の家へと足を運んだ。周囲に誰もいないことを確かめながら、落書きだらけになった雑誌を封筒に入れ、こっそりとポストの中へ滑り込ませる。何事もなかったかのようにその場を離れ、自分たちの家へと帰宅した。
家に着くと、三人はテーブルを囲んでデザートを食べ始めた。甘い味が口に広がる頃、貞夫は疲れからかうとうとし始め、やがて深い寝息を立てて眠り込んでしまった。
部屋にはふみと愛斗だけが残される。ふみは愛斗の肩にぴったりと身を寄せ、顔を上げると柔らかく唇を重ねた。口づけを交わしたあとは、体をくっつけ合いながらアイスクリームをすくって食べる。冷たい甘さと、互いの体温が混ざり合って、何よりも満たされる時間だった。
「やめて、何してんの」
「ふみちゃん、昨日何度注意したと思ってんの」
「え、私たち恋人同士なんだから別にいいじゃない。あ、もしかして嫉妬? 自分に彼女がいないからって、嫉妬してんの? 童貞なんだ」
「ふみちゃん、もっちゃんに謝ってよ」
「ふみは悪くないもん」
「あんた、最低だよ」
愛斗はふみを伴い、貞夫と共にその場を逃げるように立ち去った。
それからすぐ、ふみは愛斗の背中にぎゅっと抱きついた。
「大丈夫だった? 何もされてないよ。連絡する前に、いきなり襲われそうになっただけだから」
「わかった
愛斗が話していると、そこへカメラマンとスタッフが声をかけてきた。折しも取材の時間となり、愛斗は予定通り話を聞かれることになった。一通り質問に答え、撮影も終わると、三人は少し話し込んだ後、愛斗の記念に焼肉を食べに行くことにした。
事前に予約を入れていた店へ着くと、三人は個室へ通された。テーブルには次々と肉が運ばれ、文が鉄板の上で丁寧に焼き、三人で分け合って食べる。
「愛斗くん、取材おめでとう」
「ありがとう」
「愛斗くん、イケメンなんだからきっと1面に載るよ」
「うん、楽しみだな」
他愛もない話をしながら焼肉とご飯を味わい、会計を済ませて店を後にした。
それから一ヶ月が過ぎた。愛斗が掲載されるはずの無料情報誌『ちくの山』が発行されると、文は街の店を回り、二十冊以上も手に入れて帰ってきた。
家に着くなり、愛斗と貞夫を呼んで三人でページを開いた。
だがふみの顔から一瞬で笑顔が消えた。
そこには、「みんなから愛される店『中華もっちゃん』」と大きく書かれ、店主・茂山幸輝の姿が堂々と一面を飾っていた。
愛斗の姿はというと、隣のページの一覧欄に小さく名前と写真が載っているだけだった。
「俺、もっちゃんよりずっと小さいな……」
落胆を隠せない声が漏れる。
「カメラマンの見る目がなかっただけだよ。愛斗くん、すごくかっこよく撮れてるから」
「ありがとう」
「うん」
ふみは笑顔で愛斗をなぐさめたが、愛斗はその前では平気なふりをしていても、心の奥底では深く落ち込んでいた。
ふみはそっと台所へ向かうと、幸輝が載っているページを金のタッパーの中に入れ、マッチに火をつけた。炎が紙面を舐めるように燃え上がる。
「こんなところに載るのは、あなたじゃないでしょ」
くすりと笑いながらつぶやくと、幸輝の写真が印刷されたページは跡形もなく灰になった。その後、文は愛斗が掲載されたページだけを丁寧に切り取り、自分のノートに貼りつけた
「愛斗くんのほうがイケメンなのに」
ふみはまだ手元に残っていたもう一冊の雑誌を取り出すと、黒いペンを握り締め、一面に大きく載った幸輝の顔を隅から隅まで塗りつぶしていった。真っ黒になった上から、「バカ」「クズ」「ナルシスト」と次々に書き殴り、ようやく胸のつかえが少しだけ下りたような表情を浮かべた。
それから二人はコンビニへ向かい、買い物を済ませると、そのまま幸輝の家へと足を運んだ。周囲に誰もいないことを確かめながら、落書きだらけになった雑誌を封筒に入れ、こっそりとポストの中へ滑り込ませる。何事もなかったかのようにその場を離れ、自分たちの家へと帰宅した。
家に着くと、三人はテーブルを囲んでデザートを食べ始めた。甘い味が口に広がる頃、貞夫は疲れからかうとうとし始め、やがて深い寝息を立てて眠り込んでしまった。
部屋にはふみと愛斗だけが残される。ふみは愛斗の肩にぴったりと身を寄せ、顔を上げると柔らかく唇を重ねた。口づけを交わしたあとは、体をくっつけ合いながらアイスクリームをすくって食べる。冷たい甘さと、互いの体温が混ざり合って、何よりも満たされる時間だった。