終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
ワタセホテルの宴会場【瑠璃】
今日はここで、九条グループとワタセホテルの懇親会が開かれている。 
親族や関係者からの挨拶周りも落ち着き、俺は手にしていたグラスにやっと口づけた。

(毎度テンプレみたいな挨拶、ご苦労なこったな)

いや、今回はそうでもないな。
婚約者に関して探りを入れてきたからだ。
とは言っても、前回ここで志穂の大立ち回りを見た奴らは、口を噤んでしまった。
俺は、襟首すれすれの部分に手をやる。 

「珍しくご機嫌ですね」
「そうか?変わらねぇだろ」
「ニヤつきの原因は……それですか」

麗華が呆れた顔で近寄ってきた。
彼女が指差したのは、俺が手をやった箇所にくっきり咲いた赤い痕。 
 
昨晩、「ちょっと待ってねっ・・・・・・」と志穂が一生懸命に付けていた。
どうやら、今日行けない代わりにお守りで、と言うことらしい。

「志穂さん、思っていたよりも芯のある方でした」
「知ってる」
「私にもミルクティーを淹れて頂けるのかしら」
「別にいいけど」
「分かってるくせに。……そういう意味じゃないことくらい」
「お前こそ、俺は違うんだろ」
「どうかしらね」
    
グラスを仰いだあと、感情の読めない笑顔で俺を見る。  

「綾人さん、素敵な婚約者をみつけたわね」
「俺の見る目がなかったと思うか」
「志穂さんの見る目があったのよ」
    
麗華もきっと志穂を気に入ったんだろう。
——素直には言わないだろうけど。        

今頃、家で好きなライブDVDでも見ながら笑ってるんだろう。
可愛い彼女の姿を思い浮かべながらグラスを仰いだ。 
< 104 / 121 >

この作品をシェア

pagetop