終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

最終話 ビーナスベルトの甘い罠

九月に入るも、まだまだ残暑厳しい夜。
熱気と残業にあてられたあたしは、フラフラになりながらビーナスベルトの扉を開けた。

「いらっしゃい、志穂ちゃん」
「こんばんは、藤原さん」

出迎えてくれたマスターと阪野先生に、あたしは勢いよく手を合わせる。
 
「呼び出したあたしたちが、遅刻してすみませんっ!」
「仕方ありませんよ、仕事だったでしょ」
「阪野先生っ……優しいっ」

二人に促されて、あたしはスツールに座る。
マスターのシェイカーを振る軽快な音が響く。
その姿は、いつ見ても優雅で惚れ惚れするほどカッコいい。

注がれたカクテルは、ブルームーン。
あたしは特別な想いで、それを見つめる。

「マスターも阪野先生も、本当にありがとうございました」

あの日、あの時。
二人がいなければ、最悪、この結末にたどり着かなかったかもしれない。
感謝してもしきれない。 

「私たちは何もしてませんよ。藤原さんが自分で気付き、そして自分自身で選んだ結果です」

「ただ……」と悪戯っぽく阪野先生が、あたしを見る。

「涙を拭いてあげれなくて、残念でした」
「阪野先生……?」
「今からでも遅くないですよ、綾人で大丈夫ですか?」
「もちろんです」
 
そう答えようとした瞬間だった。
 
「大丈夫に決まってんだろっ」
 
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