終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
聞き慣れた低い声が割って入る。 

「綾人っ?!」

阪野先生とあたしの間に、綾人が割って入ってきた。

「勇、てめぇ……」
「器の小さい男は嫌われるよ、綾人」
「綾くん、いらっしゃい。お疲れさま」
「マスター、こんばんは」

「隣詰めろ」と、強引に、そのままあたしが座っていたスツールに腰を下ろした。 

「心の狭い男も嫌われるよ——」
「うるせぇな」
「綾くん、良かったね」

朗らかに、マスターが綾人へウォッカギブソンを差し出す。
そして、その隣にはブルームーン。
あたしたち二人がよく飲む、はじまりのカクテル。

「綾くんはね、全然、隠せてなかったんだよ」
「え?」
「志穂ちゃんと出会ったときから、ずっと」

マスターが小さくウィンクして、にこりと微笑む。
まるで綾人のもう一人の保護者みたいに。

「……そうなの?」
「知らね」

そっぽを向いて飲む綾人の腕を、そっと摘まむ。

「あのね……正直、性格はすぐ変われない」 
「だから、落ち込んだら……またウジウジするかも……知れない」 
「好きな綾人に弱い自分を見せるのが怖くなる時もある……」

正直な気持ちを吐いたところで、小さく息を吐いた。
ぎゅっと、綾人の腕に抱きつく。
   
「でも、綾人が好きな私を蔑ろにしない、大事にする」  
「知ってる」

綾人はそれだけ言ったあと、ポンポンと頭を軽く撫でた。 

「マスター、勇、ありがとな」
「珍しく綾人が素直だね、明日雪かな」
「いつも素直だろうが」
「どうかなぁ~」

まるで小学生の男子みたいに。
わぁわぁ言い合ってる二人を横目に、ブルームーンを一口飲む。 
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