終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「お待ちしておりました、藤垣様」 

都会の一等地にある高級店が立ち並ぶエリア。
その一角のハイブランドショップの店舗前で、恭しく店員が頭を下げる。

「お世話になります、山本(やまもと)さん」  
「さ、どうぞ中へ」
  
呆気にとられているあたしに、綾人が手を取りエスコートしてくれる。
一歩踏み入れると、見たことない装飾に、品のある服や靴が並べられている。

あたしが知る限り、綾人は普通のサラリーマンだったはず。
——なのに、彼が何者なのかわからなくなる。

「婚約者の志穂です。彼女のドレス一式を見繕いたい」
「はじめまして、藤原志穂と申します」

(って……ドレスって何?聞いてないんだけどっ) 

反射的に整えた笑顔で、緊張を微塵も出さずに切り抜ける。
綾人の面白がる視線を感じるも、あたしはあえて見ないフリをした。 
   
「素敵なお方ですね。かしこまりました」 
「志穂、好きなの選べよ」

そう言われたものの、選べるはずもなく。
あたしは綾人の腕を引っ張り、こっそり囁く。
  
「こんな店入ったことない」
「そうなのか?」
「タグない服とか怖い」

ただ、がっかりさせたくないから。
借り物じゃなくて、ちゃんと着こなしたいとは思う。
すると綾人が一枚のドレスを持ってやってきた。
   
「これ、着てみろ」

案内された試着室で着替える。
すると綾人が声をかけてきた。

「開けるぞ」
「ちょっと……まだ着替えてる!」
「後ろ、上げれねぇだろ」

半ば強引に入ってきた綾人に、あわてて背を向ける。

「着替えの途中だったらどうすんのよっ」
「それくらい、時間みてりゃわかる、ほら」

言い終わらないうちに、ジッパーを引き上げる。

「やっぱりな」             

鏡越しに、満足気な綾人の視線と合わさる。
ミッドナイトブルーの生地に、胸元には繊細なレースがあしらってある。
幾重にも重なったチュールスカートの奥で、細やかなラメが煌めいている。

(まるで、あたしの好きなブルームーンみたい) 
 
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