終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「あと、これな」
 
綾人の指先が一瞬だけ首筋に触れる。
それだけなのに、心臓がぴくんと跳ねた。
 
「綾人っ――え?」
 
さっきまでにはなかった一粒の輝きが、首元に光る。

「きれい……」
「だろ。靴も合わせるぞ」

そう言って手を取られ、試着室の外へ連れ出される。  
綾人が選んだのは、華奢なストラップのシルバーヒール。
メタリックレザーがこのドレスに良く似合っている。   
 
「よくお似合いでございます」            

綾人を見ていた他の女性客や店員の視線が、集まってくる。
あたしの格好を見つめるも、綾人は何も言わない。

(似合うとか……お世辞でも一言くらいないわけ?) 
 
少しだけ落ち込むあたしの腰を、綾人が静かに抱き寄せる

「それで他の男に声かけられたら面倒だろ」

視線を合わせず、「待ってろ」と店員に声をかけに行った。 
囁くような声は、耳の奥に泳いでこだまする。

「……なによ、それ……ズルすぎ」

零れたつぶやきは、ミッドナイトブルーの海に静かに落ちていった。
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