終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第7話 婚約者候補と婚約者のフリ

綾人の腕に手を添えたまま、ホテルの中へ足を踏み入れる。
外の喧騒がうそのように遠のく。  

到着した場所は、格式ある老舗ホテルとして有名なワタセホテル。
もちろん、泊まったこともなければ、エントランスすら入ったこともない。 

(テレビで観るより……煌びやかだし気品ある……)
 
心まで迷子にならないよう、少しだけ手の力を強めた。
進むたびに、「藤垣様、お疲れ様です」「本日はよろしくお願いいたします」と声が飛んでくる。
そのたびに綾人は軽く頷くだけ。
 
(なにこの人。経営企画部じゃなくて王族なの?) 
 
でも、本当に今日の綾人は別人みたいだ。
仕立ての良いスーツに身を包み、整えられた髪型、仕草も品の良さが窺える。
 
(場違いなくらい……あたし浮いてるかも)
 
それでも絡めた腕からわかる体温は、いつもの彼そのものだ。

(綾人の匂いも体温も……安心する)

いつもと同じ香水の香りに、落ち着く日が来るなんて。
 
「綾人」
「ん?」
「あんた本当に経営企画部?」
「一応な」
「……絶対それだけじゃないでしょ」

エレベーターを降りると、目の前に【瑠璃】という入口。
大宴会場……この規模の大きさは嫌な予感しかしない。
確証がほしくて、綾人の腕を引っ張る。 
  
「そろそろ、ここに連れてきた理由、教えなさいよ」
「察しのいい志穂ならわかってるだろ?」

(……やっぱり!でもお父さんに挨拶だけなのに、この規模はなに?!) 
 
少しだけ睨んだ視線を送ると、推しと同じ涼しい顔……いや、見たことないくらい胡散臭い笑みを浮かべる。
そして、ほどかれた腕はあたしの腰を抱き寄せた。 

「いつものお前でいいんだよ。婚約者だけどな。まさか……怖じ気づいた?」
「はぁ?完璧に演じきってやるわよっ、見てなさい」
「見ててやるよ、志穂」  
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