終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
売り言葉に買い言葉とはいえ、慣れない雰囲気に少しだけ足が竦みそうになった。   
会場に入ると、すぐさま各方向から視線が降り注ぐ。 
想像以上に、不躾で値踏みするようなものばかり。
 
その中から、可愛らしい声とともに、一人の女性が駆け寄ってくる。
  
「わぁっ~あやくんっ、久しぶり」

挨拶とともに、反対側の綾人の腕に抱きついた。
彼女が動くたびに、淡いピンクのドレスがふわふわ揺れている。

(あたしとは……正反対のかわいい女子) 
(いや、別に婚約者のフリだし?)
(でも近いっ!近すぎるっ!)

「……あれ?その人、もしかして噂の?」
「そ、俺の婚約者」

綾人は静かに相手から腕を振り払うも、懲りずにべたべたしている。
なぜか腹立たしくなるも、隠した笑顔で挨拶をする。  

「初めまして、藤原志穂と申します」
「へぇ〜♪」

お辞儀をするも、彼女はじっと視線を上下に動かしている。

「あやくんが選ぶ人ってどんな人かと思ったら〜」
「思ってたよりおばさん……あ、地味な方ね」

視線もだが、明け透けな物言いに、眉間がぴりつくもなんとか堪える。

「あたしは、神代美優(かみしろみゆ)。あやくんの婚約者よ」
「神代とは親父が勝手に決めただけだろ」    
「家柄も品性も、この人より私の方が上だわ」
 
そう言いかけた神代さんの視線が、ふいにあたしの足元で止まった。
 
「――って、それ……まさかっ!」

ふるえる声で彼女が指さしたのは、アンクレット。

「なんでおばさんが、それを付けてるのよっ!」
  
そんなに動揺するものかと思っていたら、間に割って入る人影。

「こんばんは、お久しぶりです」
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