終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「買い物とは聞いたけど……すげぇな」
「だから、付いてこなくて良かったのに」

初めに訪れたのは、アイドルショップ。
解散したものの、来月末までいち様グッズが取り扱われている。

(良かった!この前買えなかったブロマイド、入荷してる~!)

いくつか買い逃していた商品を手にしつつ、ふと綾人を見る。
物珍しそうに店内のあちこちに視線を移していた。 
       
——さすが、推しに似ているだけはある。
アイドルショップにいても違和感どころか、妙に馴染んでいた。
周りの女子たちの視線も集まっていた。

「この前、祭壇で見たやつ」

綾人が指差したアクリルスタンドもカゴにいれる。
「そ。今の家に連れて帰るの♪グループは解散だけど、ソロでは活動するからね」 
「これも買っとくか?」
「いらない。それは違うグループだから」
「こっちも」
「いらないって!」
「じゃあ全部買う」 
「ちょっと待て!!」   

綾人の過保護っぷりに驚きつつも、内心では喜んでる自分がいる。

(ここに買い物来ても、引かないとか……うそみたい)  

何とか綾人を宥めて、会計を済ませる。
その後、ショッピングモールに移動し、仕事で着るブラウスや、出張に持っていく日用品などを買い込んだ。
気付けば、綾人の両手には紙袋でいっぱいだ。

「……なんか、ごめん」
「荷物係、役に立っただろ?」   
「それは、そう。……ありがと」
「それにしても出張とか急だな。前もって言えよな」  
「……あんたがそれを言う?てか、ちょっとは反省しなさいよ」
「何が」
「いろいろ!全部っ!」
 
綾人は悪びれる様子もなく、買ってきた荷物を手際よく片づけ始める。
 
「そういやマスター、めちゃくちゃ喜んでたぞ」
「なんで?」
「あの人、お前のこと気に入ってるから」
「それは嬉しい」
「だろ?」
 
それだけ言うと、綾人は当たり前みたいに、あたしの買ったアクリルスタンドを棚へ並べ始めた。
 
「ちょっ、それ雑に触らないでよ!」
「わかってる」
 
文句を言いながらも、自然と笑ってしまう。
        
(こういうの、同居じゃなくて……)
(もう普通に、ふたり暮らしじゃない)

冷蔵庫に入っているミルクティーとか。
並んだ歯ブラシとか。 
食器がどこにあるとか。
朝は和食派なんだとか。 
でも、ところどころに、推しのアクリルスタンドがあって。
それだけじゃない。
 
隣で眠る綾人から香るのは、あたしと同じボディソープで。

ほんの少しだけ、悔しいけれど。
気付けば、この部屋に帰るのも当たり前になっていた。
  
——ふたり暮らしも悪くない。
 
そう思ってしまった日曜日の夜だった。  
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