終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
流れる車窓から最寄り駅が見えて、弾かれるように思い出す。
駅構内に貼ってあったポスター。 
 
「そうっ……花火大会っ!」
「あぁ、もうそんな時期か」

夏の風物詩でもあり、八月の目玉イベントでもある。
毎年、とまではいかないが、行けるときは足を運んでいた。
 
(去年は元カレと、終わりだけ見たんだっけ……)

苦い思い出を振り払うように、ミルクティーを飲む。
そして運転中の綾人に、声をかけてみる。

「綾人は興味ある?」
「お前が見たいんだろ。いつだっけ?」
「それがね……出張から帰ってくる日」
「夕方には帰るんだろ。なら間に合うな」
「いいの?」
「浴衣着るならな」

信号待ちでこちらを向いた綾人と目が合う。
……ずるい。
堪えきれなくなって、先に視線を逸らす。

「……浴衣持ってない」
「用意しとく」
「だめっ!」
「時間ねぇだろ。素直に用意されとけ」
「ネットで注文するから!」
「濃紺……朝顔か」         
「綾人?」
「似合いそうだから。楽しみにしとけ」
 
(なんでそんなこと平気で言うのよ……)

終電を逃した車の中で交わした小さな約束。
まるで朝顔が咲いたように、密かに嬉しかった。
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