終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
マスターから渡されたブルームーンを、一口飲む。
バニラの香りにレモンの酸味がたまらない。
やっぱりマスターが作るブルームーンは、落ち込んだあたしを元気づけてくれる。
「でも、藤原さん自ら、会場内で婚約者宣言をしたとか」
「え……っ……それは……まぁ……」
「ふふっ。綾人、嬉しそうに話してくれましたよ」
「あぁ……からかわれましたもんね。他の婚約者候補に比べたら全然違いますし」
「なるほど」
「おばさん呼ばわりする子だっていたし」
「ほう」と相槌を打ちながら聞いてくれる。
それをいいことに、ずっと吐き出しかった愚痴が止まらない。
「綾人のお父さんも圧が凄いっ!なんか怖いっ……でも綾人と似てるから腹立つっ」
「あぁ……ちょっとわかります」
「でしょ?!あと……九条さん……」
彼女を思い出すと同時に、ヒートアップしていた気持ちが掻き消されていく。
「容姿もだし、立ち居振る舞いだけじゃない。仕事も、何もかも。今のあたしにないものを持ってるから……そりゃ綾人の隣にいても変じゃないのかも……」
一度、瞳を閉じて深く息を吐く。
「でも……一番だめなのは、これくらいで揺らいで自信をなくしてるあたしなんです……」
ブルームーンに映る可愛くない顔を揺らしてみる。
卑屈めいた思考は、落ちているときの自分の悪いクセだ。
「なるほど、そういう感じですか」
「え?」
「藤原さん、ひとつ、教えてあげますね」
「私のお店に、女性を……しかも綾人自ら連れてきたのは、藤原志穂さん。あなたが初めてですよ」
あぁ、阪野先生もやっぱり綾人の友人なだけある。
優しさの中に少しだけ意地の悪い瞳は、返事を寄越さないアイツと被る。
自分の中に押し込めていた蓋が外れそうになる。
そのとき、スマホが震えた。
画面に表示された名前を見た瞬間、 小さく息を飲む。
【平松大輔】
以前なら嬉しかったはずなのに、高揚も幸福感もない。
「……綾人」
前なら、ありえなかったのに。
今、真っ先に浮かんだのは、藤垣綾人の顔だった。
バニラの香りにレモンの酸味がたまらない。
やっぱりマスターが作るブルームーンは、落ち込んだあたしを元気づけてくれる。
「でも、藤原さん自ら、会場内で婚約者宣言をしたとか」
「え……っ……それは……まぁ……」
「ふふっ。綾人、嬉しそうに話してくれましたよ」
「あぁ……からかわれましたもんね。他の婚約者候補に比べたら全然違いますし」
「なるほど」
「おばさん呼ばわりする子だっていたし」
「ほう」と相槌を打ちながら聞いてくれる。
それをいいことに、ずっと吐き出しかった愚痴が止まらない。
「綾人のお父さんも圧が凄いっ!なんか怖いっ……でも綾人と似てるから腹立つっ」
「あぁ……ちょっとわかります」
「でしょ?!あと……九条さん……」
彼女を思い出すと同時に、ヒートアップしていた気持ちが掻き消されていく。
「容姿もだし、立ち居振る舞いだけじゃない。仕事も、何もかも。今のあたしにないものを持ってるから……そりゃ綾人の隣にいても変じゃないのかも……」
一度、瞳を閉じて深く息を吐く。
「でも……一番だめなのは、これくらいで揺らいで自信をなくしてるあたしなんです……」
ブルームーンに映る可愛くない顔を揺らしてみる。
卑屈めいた思考は、落ちているときの自分の悪いクセだ。
「なるほど、そういう感じですか」
「え?」
「藤原さん、ひとつ、教えてあげますね」
「私のお店に、女性を……しかも綾人自ら連れてきたのは、藤原志穂さん。あなたが初めてですよ」
あぁ、阪野先生もやっぱり綾人の友人なだけある。
優しさの中に少しだけ意地の悪い瞳は、返事を寄越さないアイツと被る。
自分の中に押し込めていた蓋が外れそうになる。
そのとき、スマホが震えた。
画面に表示された名前を見た瞬間、 小さく息を飲む。
【平松大輔】
以前なら嬉しかったはずなのに、高揚も幸福感もない。
「……綾人」
前なら、ありえなかったのに。
今、真っ先に浮かんだのは、藤垣綾人の顔だった。