終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
(それを今さら、なんで電話してきたの?)

いや、違う。
なんで、あたしは電話を取ったのか。

「仕事が落ち着いたからさ。会わないか」
「え?……なんで」
「謝りたいこともあるし。明日どう?」
「ちょっと、急に……」
「よしっ。じゃ、明日な、お前の会社に迎えに行くから。逃げんなよ」                        
 
言いたいことだけ言って、大輔はそそくさと電話を切った。

(全然、人の話を聞かない……この強引さ)

綾人とは似て非なるもの。

メッセージアプリは相変わらず沈黙のまま。
やるせないモヤモヤを抱えたまま、あたしは店内に戻った。

「大丈夫でしたか?」
「はい、すみませんでした。……あたし、そろそろ帰りますね」

マスターにチェックをお願いすると、阪野先生が制止する。 

「マスター、藤原さんのも私のほうに」
「そんなっ」 
「その代わりに……差し出がましいですが、今の電話のお相手は元カレですか?」
「……はい」   
「まさか、よりを戻すとか?」
「違いますっ……ただ、向こうが謝りたいことがあるみたいで……」    

慌てて否定するも、阪野先生は瞳の奥を確かめるように見てくる。 

「そうですか。じゃあ、藤原さんはその後、どうしたいですか?」
「その後?」
「復縁ですか?それとも別の何かですか?」
< 50 / 121 >

この作品をシェア

pagetop