終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
(……何も言えなかった)

目の前でメニュー表を見ている大輔を見て、心の中で呟く。
 
昨日、バーでの阪野先生の問いから逃げるように帰って来てしまった。 
復縁したいわけじゃない。
じゃあ、どうしたいのか。
それが自分でも分からない。

(……いい加減連絡しなさいよっ、あのバカっ)
 
疲れて寝てそれでも朝起きて、気持ちが浮上しないまま出社した。

「まさか……本当に来るなんて」
「志穂はいつものサラダでいいよな?」
「あたし飲み物みたい」
「あ、選んだから。すいませーんっ」  

あたしの話を聞かずに、さっさと店員を呼んで注文していく。
こんなに会話が噛み合わなかったのだろうか。

ここは二人でよく行っていた居酒屋で、メニューも知っている。 
でも目の前の大輔は、知らない人に見えた。
 
お酒もご飯も口に入れてるのに、何だか味が分かりにくい。
あんなにドキドキしていたはずの心も、今はすっかり落ち着いている。

「そういや、志穂。仕事忙しくてほったらかしにしてただろ?」
「え……」
「もう落ち着いたし、より戻さね?」
「ちょっと待って……大輔がフッたんだよ?」
「悪かったよ。それを謝りたくて。ニュース見たよ、お前の推しも終わっただろ」

いち様のことを話題に出されて、胸の奥がざわりと騒ぎ出す。

「……え?まさか、まだ推し活してんのか?」
「……うん」
「お前さ、いい年なんだから卒業したら?さすがに結婚するのにまずいだろ」
「は?」
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