終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「ちなみに、昨日綾人さんからあなたのことで連絡がありました」
「綾人から?」
弾かれたように、身を乗り出してしまった。
九条さんの口からあまり聞きたくない名前。
(綾人と何話してたんだろう……)
「藤原さん、あなたは綾人さんを支えたいんですか?」
「え……」
「それとも、支えられる資格がほしいのですか?」
想像していなかった彼女の問いに、隠れていた卑屈と劣等感が顔を出す。
(私は九条さんみたいに数字も見れない)
(ホテル経営も分からない)
——綾人の役に立てない
(隣にいる資格なんて、あるの……?)
答えにならない呟きが、九条さんの耳に届く。
「住む世界が違う……」
「住む世界が違う、ですか」
九条さんが小さく息を吐いた。
「私はそうは思いません」
「え……?」
「もし本当に住む世界が違うなら、綾人さんはあなたを選ばないでしょう」
「……」
「少なくとも私はそう思います」
いつもより、少しだけ感情がふれた声。
言い聞かせるように、ゆっくりした口調になる。
「前にもお伝えしましたが、私には客目線はありません。数字を見るのは私の役目です」
「ですが、お客様が何を求めているかを考えるのは藤原さんの方が上手い。役割が違うだけです」
(違う)
(役割じゃない)
(あたしには、あの二人みたいな力がない)
「同じように、綾人さんには綾人さんにしか出来ない役割があります。だからあなたたちはバランスが良い」
「……あなたは、このまま私が彼の婚約者になればいいと思っていませんか」
「……それは」
心の奥底にたゆたう仄暗い感情。
それを読まれたみたいで、息が止まった。
「今度九条グループとワタセホテルとで懇親会があります」
「そこで再度、婚約者として私が候補にあがっています」
「……そう……ですか……」
「ですが、それは私の問題です」
「え……?」
九条さんがあたしの胸を指差す。
「藤原さん」
「あなたの本当のお相手は」
「私ではありません」
「…………」
「あなた自身なのかもしれませんね」
そう言うと、カバンを持ち立ち上がる。
「そのことだけ、お伝えしておきますね」
それだけ残し、九条さんは帰っていった。
自分がどんな顔で聞いていたか、もうわからない。
ただ、鈍器で殴られたみたいな衝撃に、立ち尽くしてしまった。
「綾人から?」
弾かれたように、身を乗り出してしまった。
九条さんの口からあまり聞きたくない名前。
(綾人と何話してたんだろう……)
「藤原さん、あなたは綾人さんを支えたいんですか?」
「え……」
「それとも、支えられる資格がほしいのですか?」
想像していなかった彼女の問いに、隠れていた卑屈と劣等感が顔を出す。
(私は九条さんみたいに数字も見れない)
(ホテル経営も分からない)
——綾人の役に立てない
(隣にいる資格なんて、あるの……?)
答えにならない呟きが、九条さんの耳に届く。
「住む世界が違う……」
「住む世界が違う、ですか」
九条さんが小さく息を吐いた。
「私はそうは思いません」
「え……?」
「もし本当に住む世界が違うなら、綾人さんはあなたを選ばないでしょう」
「……」
「少なくとも私はそう思います」
いつもより、少しだけ感情がふれた声。
言い聞かせるように、ゆっくりした口調になる。
「前にもお伝えしましたが、私には客目線はありません。数字を見るのは私の役目です」
「ですが、お客様が何を求めているかを考えるのは藤原さんの方が上手い。役割が違うだけです」
(違う)
(役割じゃない)
(あたしには、あの二人みたいな力がない)
「同じように、綾人さんには綾人さんにしか出来ない役割があります。だからあなたたちはバランスが良い」
「……あなたは、このまま私が彼の婚約者になればいいと思っていませんか」
「……それは」
心の奥底にたゆたう仄暗い感情。
それを読まれたみたいで、息が止まった。
「今度九条グループとワタセホテルとで懇親会があります」
「そこで再度、婚約者として私が候補にあがっています」
「……そう……ですか……」
「ですが、それは私の問題です」
「え……?」
九条さんがあたしの胸を指差す。
「藤原さん」
「あなたの本当のお相手は」
「私ではありません」
「…………」
「あなた自身なのかもしれませんね」
そう言うと、カバンを持ち立ち上がる。
「そのことだけ、お伝えしておきますね」
それだけ残し、九条さんは帰っていった。
自分がどんな顔で聞いていたか、もうわからない。
ただ、鈍器で殴られたみたいな衝撃に、立ち尽くしてしまった。