終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
昼休み、あたしは綾人の家に戻ってきた。
誰もいない静かな、でも明るいリビング。
朝に過ごした風景を掻き消すように、クローゼットを開けていく。
綾人に借りていたもの。
綾人から受け取ったもの。
それらを一つずつ、丁寧に畳んでいく。
全てのものを、まとめてクローゼットの中に入れておいた。
「……面と向かってなんて、言えない」
だから、書き置きするしかない。
あたしは、カバンからペンと紙を取り出した。
【ペン先に恋して】とのうたい文句で買ったボールペン。
恋を綴るどころか、さよならを書くとか皮肉すぎる。
何て書こうか悩んだ挙げ句、絞り出したのはたった三行。
【婚約者のフリの報酬として
借りていたものと
いただいたものを返します】
本当はカードキーも添えたいが、この後施錠できなくなる。
(貴重品だしね……会ったときに、返そう)
紙を置いて、立ち上がる。
そのまま玄関まで行き、靴を履く。
ドアノブに手をかけるのを、一瞬、躊躇った。
ゆっくり振り返る。
ソファ。
冷蔵庫。
カーテン。
キッチン。
ベッド。
どこを切り取っても、あたしの日常の一部になっていた。
(綾人の部屋なのに……あたしの居場所にもなってた……)
(なのに……もうムリだよ……)
ガチャン。
鍵を閉めたのは、綾人の部屋だけじゃない。
もう、あたしの心は、とっくに限界を超えていた。
仕事を終えて会社を出ても、あたしは自分の家へ帰ろうとはしなかった。
現実から逃げるように、あたしはビーナスベルトの扉を開けていた。
誰もいない静かな、でも明るいリビング。
朝に過ごした風景を掻き消すように、クローゼットを開けていく。
綾人に借りていたもの。
綾人から受け取ったもの。
それらを一つずつ、丁寧に畳んでいく。
全てのものを、まとめてクローゼットの中に入れておいた。
「……面と向かってなんて、言えない」
だから、書き置きするしかない。
あたしは、カバンからペンと紙を取り出した。
【ペン先に恋して】とのうたい文句で買ったボールペン。
恋を綴るどころか、さよならを書くとか皮肉すぎる。
何て書こうか悩んだ挙げ句、絞り出したのはたった三行。
【婚約者のフリの報酬として
借りていたものと
いただいたものを返します】
本当はカードキーも添えたいが、この後施錠できなくなる。
(貴重品だしね……会ったときに、返そう)
紙を置いて、立ち上がる。
そのまま玄関まで行き、靴を履く。
ドアノブに手をかけるのを、一瞬、躊躇った。
ゆっくり振り返る。
ソファ。
冷蔵庫。
カーテン。
キッチン。
ベッド。
どこを切り取っても、あたしの日常の一部になっていた。
(綾人の部屋なのに……あたしの居場所にもなってた……)
(なのに……もうムリだよ……)
ガチャン。
鍵を閉めたのは、綾人の部屋だけじゃない。
もう、あたしの心は、とっくに限界を超えていた。
仕事を終えて会社を出ても、あたしは自分の家へ帰ろうとはしなかった。
現実から逃げるように、あたしはビーナスベルトの扉を開けていた。