終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
あたしは、二杯目のブルームーンを少しだけ飲む。
今回の失敗談を、話せる範囲で話し始めた。
二人は静かに聞いてくれている。

「いつもなら、こんなに凹むことなかったんですけどね」

乾いた笑いで、本当の自分を隠す。
「大丈夫」と念を押すように、もう一口飲む。
今まではそんな時、いち様を見ればすぐに吹っ飛んだ。  
なのに。
 
(だめだ……やっぱり、綾人が出てくる)

拭ったはずの涙が、じわりと顔を出す。 
  
「藤原さんの本音は、もっと別なんじゃないですか?」
「どういう意味ですか?」
「婚約者のフリがしんどくなった……とか、綾人にキツいこと言われた……とか」

阪野先生が思い付く限りのことを、指折り数えていく。

「綾人は……関係ないんです……」   
「あたしが弱いから……」
「あたし、隣にいる資格ない……九条さんみたいに支えられない。……強くない」
「志穂ちゃんは優しいね」
「……優しくなんかないです」 

マスターの言葉に、あたしは首を横に振る。
 
(優しくないし、強くもない)  
(それでも、綾人はあたしを選んでくれる?)

聞けない本音が積もりすぎて、苦しくなっていく。  
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