終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「私じゃ無理だから……」
「何が」
「だって失敗ばっかりで」
「婚約者のフリなのに……」 
「弱くて」
「泣いて」
「嫉妬して」
「麗華さんみたいになれない」

嫉妬の先にあるのは劣等感。
パーティーで初めて会ったときに、本能的に抱いてしまった。
——完璧な彼女には勝てない

今も、自分で勝手に作り上げた九条さんが、頭の中に存在している。 
それは九条さんの皮を被った、自分を否定するための最後の壁だった。 
 
「だから何だ」

でもその壁を、綾人は易々と壊していく。
  
「支えられないから」
「住む世界が違うから」
「だから、離れなきゃいけないのに……」
「好きになったらダメなのに……」 
「好きなの……」

「ほんとは臆病で怖がりで……幻滅されたくない……」
「綾人が好きだから……嫌われたくない……」
「でも、綾人が誰かのものになるのが嫌っ……」
 
もう枯れたんじゃないかと思っていたのに。
次から次へと流れる涙を、両手で拭っていく。 
綾人はその手をしっかり掴む。  

「綾人がすき……大好きなの……」
 
あれほど言葉にできなかった想いが、自然に口にだせた。  
涙が、シーツを点々と雨のように濡らしていく。
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