終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「勘違いしてんじゃねぇ」
「幻滅もしないし、嫌いにもならない」 
「それに支えてほしいんじゃねぇよ」
「え……」
「俺がお前を支えたいんだろ」 

見たことない表情が、綾人の本音だと教えてくれる。 
ふれている両手のぬくもりが、更にあたしの涙を誘う。
  
「麗華は確かにすごい」
「でも俺が欲しかったのは、お前なんだよ」
「で、お前は俺から離れられるのか」 
 
あたしは小さく頭を振る。
綾人の両手が、あたしの頬を包み込んだ。
  
「好きだ」  
「っ……」
「だから、安心しろ」

優しく甘く低い声が、身体中を駆けめぐる。
  
(聞き間違い……じゃないよね……?)
 
「志穂?」
「ほんとにっ……?嘘じゃない……?」
「ずっと言ってる」
「聞いてない……」
「そうだろうとは思ってた」

苦笑しながらも、綾人の瞳が優しいままで。
 
「じゃ、今、聞いただろ」 
「……彼女」
「は?」
「だからっ……彼女でいいの……?」 
「今さら」
 
軽く笑いながら綾人がキスをしてきた。
   
「お前は俺の彼女で、婚約者だよ」

プチプチっとボタンが外される音。

「えっ?なんでっ……」
「どんだけ待たされたと思ってんだよ」
「だからって……あっ、あのねっあたし付き合ったら、めんどくさいわよっ」
「へぇ」
「あとっ……クールぶってて、意外と泣き虫なところがあってっ!」
「知ってる」
「あとあとっ……ほんとはめちゃくちゃ甘えたいし甘やかされたいっ」
「なら、丁度いいな」

そういって、左手首にあるアンクレットごと、甘噛みされた。

「今から甘やかすから、覚悟しろよ」
「えっ……ちょっとあやとっ」
「もう黙れ」

軽く塞がれた唇。
 
(もう逃げなくていいんだ……)

そのまま頬を掴まれ、角度が変わって深くなる。 

(どうしよう……幸せって思っちゃう……)  
 
呼吸ごと奪い去るような深いキスの嵐。              
心の奥を知られても、不思議と怖くない。
     
(あたしが、自分で藤垣綾人を選んだ)

優しく甘い刺激の中で、綾人の存在を確かめるように強く抱きしめた。 
< 94 / 121 >

この作品をシェア

pagetop