終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「……志穂」
 
ベッドの中で、無防備に眠る顔を見下ろす。
 
(ほんと、無自覚)
 
逃げたい顔してるくせに、心は一番近くにいた。
 
「逃がすかよ」
 
小さく呟いて、指先で頬に触れる。
涙の跡すら、愛おしいとか、手遅れだな。
  
わずかに身じろぎして、志穂が無意識にこちらに擦り寄ってくる。
 
——ほらな。
 
(最初から、こうなるってわかってた)
 
「もう二度と離す気ねぇけどな」
 
誰にも聞こえない声で落として、そのまま抱き寄せる。
 
——最初から。
選んだんじゃねぇ。
 
気付いた時には、もう手遅れだった。
ミルクティーを淹れてやりたいのも。
頭を撫でてやるのも。
アクスタを飾ってやりたいと思うのも。 
終電逃してまでビーナスベルトで酒を飲むのも。 
  
「志穂じゃなきゃ意味ねぇんだよ」

やっと捕まえたぬくもりを逃がさないよう、腕に力を込める。
もう、鑑賞用の王子様でいるつもりなんてなかった。

「叶わねぇ恋じゃなかっただろ」 
 
そのまま志穂を抱き寄せ、静かに目を閉じた。  
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