好きなのは匂いだけだったはずなのに。〜完璧上司の独占欲が止まりません〜
「……ありがとうございます、白石部長」

ジャケットだけでもこうなのに、その腕の中で白石部長の香りをいっぱいに吸えたら……。

そこまで考えて、慌てて首を振る。
だめだめ。こんなこと考えているのがバレたら恥ずかしくて死んでしまう。

匂いは、最低限にバレない程度に嗅がないと。

無意識のうちにジャケットを握りしめてその香りを堪能していると、

「……いや、何でもない」

小さく吹き出すような声が聞こえた気がして、顔を上げると真剣な顔をした白石部長が首を振っていた。

気のせいだったのかな……?

「……俺はそろそろ戻るけど、水瀬はどうする?」
「私も戻ります」

時計を確認してそう言った白石部長に頷くと、じっとこちらを見つめて口を開く。

「……もういいのか?」
「体調なら大丈夫です」
「いや、そうじゃなくて」

体調じゃないなら何だろう?と首を傾げると、ハッとした様子で口を噤んだ白石部長がじっとこちらを見つめる。

「まあ、こんなところで一人にするのは不安だしな」
「さっきみたいなのは初めてですよ。相当酔ってたんですね」

苦笑する私を見つめてた白石部長が、小さくため息を吐く。

「……そういうところが目が離せないんだろうな」
「え?」
「さっきも、本当は無理してただろ」

ふいに向けられた視線に、どくんと高鳴る鼓動。
僅かな期待で胸の奥が甘く疼く。

あの時、白石部長が隣に来たのは私を心配してくれてたから……?

「せめて、俺の目の届く範囲に居てくれ」

そう言った白石部長の真剣な瞳は、どちらかというと仕方のない子を見るような目で、そこには私が思うような熱はなかった。

私の甘い期待が砂糖菓子のようにほろほろと崩れていくのがわかった。
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