好きなのは匂いだけだったはずなのに。〜完璧上司の独占欲が止まりません〜
*

まだ告白はしてないけど、白石部長のあの瞳は完全に保護者のような目をしていて、私は恋愛対象になっていないんだと突きつけられた。
少しでも自惚れた自分が恥ずかしい。

その瞬間、ふわりと鼻を掠める香り。

姿が見えるよりも先に白石部長に気付いて、ドキドキと心臓が音を立てる。

平常心、平常心。いつも通りに挨拶しないと。

距離が近づくにつれて匂いが強くなる。
そのたびに心臓が飛び出しそうなほど脈打つ。

もうすぐ白石部長とすれ違う瞬間。
気付いたら柱の影に隠れるように体が動いていた。

白石部長の匂いだけで好きが溢れてこぼれてしまいそうなのに、平常心なんて無理。

会話は必要最低限にして、廊下でのすれ違いも減らすために白石部長の匂いがしたらすぐに別の道を使うようにした。

午前中だけですでに三回も遭遇を回避すると、隣のデスクに座る同僚の美咲の視線が突き刺さるようになっていた。

「……部長のこと避けてる?」

ぎくりと肩が跳ねる。

「さ、避けてないよ」
「じゃあ自販機の前で部長とすれ違う瞬間、自販機と一緒に並んでたのは?」

頬づえをついて楽しそうにそう言った美咲に、勢いよく顔を上げる。

「見てたの!?」
「たまたま見えたのよ」

よりにもよって一番恥ずかしい瞬間を見られたなんて。

どこにも隠れる場所がなくて、自販機と同じように並んで回避したなんて、我ながら馬鹿すぎると思う。
デスクに項垂れる私に美咲がこっそりと囁く。

「部長も気にしてるみたいよ」
「え?」
「ほら、今だってこっちを見てるし」

そう言われても白石部長のことを見れるわけなくて。

ーーそれに、

「……それ、勤務時間中に何してるんだっていう視線じゃない?」

もう期待なんてしないって決めたの。

「それもそうね」

あっさりと肯定した美咲は「でも気にしてるのは本当よ」と念を押すようにそう言って、カタカタとキーボードを叩いた。

困らせたいわけじゃない。
ただ、少しだけ時間が欲しかった。
この想いを隠せるくらいの時間が。
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