好きなのは匂いだけだったはずなのに。〜完璧上司の独占欲が止まりません〜
やっと終わったと思う頃にはすでに空は暗くなっていた。

ぐぐぐ、と腕を伸ばしているとデスクに置かれた缶コーヒー。それも私の好きな甘いカフェオレ。

「お疲れ、水瀬」
「ありがとうございます。白石部長もお疲れ様です」

白石部長はブラックコーヒーを飲みながら、片手でネクタイを緩めた。

「助かったよ。遅くまでありがとな」
「……いえ、こちらこそ手伝ってくれてありがとうございました。白石部長のおかげで私が作るよりもいい資料になった気がします」

ぶんぶんと首を振る私に、口元を緩ませて小さく笑った白石部長が私の頭へと手を伸ばしかけて、突然ぴしりと石像のように固まった。

「……悪い。これは、セクハラだな……」

頬を染める姿は、普段の白石部長から見れない表情で。
その姿に思わず目を奪われる。

「あの、」
「ん?」
「……頭、撫でてほしいです……」

ぴたりと動きを止めた白石部長に、頬がかっと熱くなる。
心臓の音が響く。
何か言ってくれないと破裂してしまいそう。

「……水瀬」
「っ、」

恥ずかしくて潤む瞳で見上げた白石部長は、熱の篭る瞳で私を見つめていた。

「……俺も男だから、そういうふうに言われると勘違いするだろ」
「……勘違い、」
「ああ。これ以上期待させるな」

それはいつかの私のようだった。
勝手に期待して、振られたと思ってた私。

「俺は水瀬が思っているよりもずっと我慢してきたんだ。そんな可愛いこと言われると……正直、困る」

でもそれが、勘違いだったら……?

「……私も、」

耳元で鳴ってるんじゃないかってくらい、ばくばくと鳴る心臓の音が煩くて、白石部長の声をかき消してしまいそう。
ぎゅっと握った手が緊張で震える。

「期待していいですか?自惚れても、いいですか?」

見上げた先、目を見開いた白石部長が私の頭へと手を伸ばす。
撫でるのかと思えば、優しく添えられて。

気付いたら、柔らかな陽だまりを浴びたリネンの香りに包まれていた。
< 9 / 10 >

この作品をシェア

pagetop