離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
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「俺の潔白が証明され騒動が落ちついた頃、法人営業で付き合いのあったアークロイヤルホテルの本部長が声を掛けてくれたんだ。出資をするから新規事業をやってみないかって。深井ホテルで働いている時から飲みに誘ってもらうことが多くて、実は当時からスカウトももらっていた」
「そうだったんだ……」
社内では不条理な評価であったが、樹さんの手腕は見る人が見ればわかり、外部でもしっかり認められるものだった。
頑張っていた彼がようやく認められ、私も嬉しくなった。
「今は、俺の目指す事業に全力を注ぐことができて、やりがいを感じている」
「今朝出演のニュース番組も見たし、パンフレットも読んだよ。樹さんらしい素敵なホテルばかりだった」
「ありがとう。まだまだ駆け出しだがなんとか軌道に乗っている。だが、今の俺には足りないものがある。――澪、君だ」
ずっと重なったままだった手が心臓にでもなったように、トクトクとする。
「澪がいない間は寂しくて、ずっと君の影ばかりを追いかけていた。夢で、何度澪を抱いたことか」
「え、だ……」
樹さんに熱を向けられた夜を思い出し、かっと頬に血が上った気がした。
力強い眼差しに、視線で抱かれているような気分になった。恥ずかしくなって、身を震わせる。
「都合がいいと思うだろう。でも俺は今、やっと会えた澪に気持ちを抑えることなどできない。なりふり構っていられないんだ。やり直そう。愛している。もう一度、俺と結婚してくれないか」
繋がっていた手が離れ、私の顎を掬った。親指が唇を撫で、今にもキスしてしまいそうなほど距離が縮まった。
「樹さん……」
「澪、好きだ。ずっと君の幸せを願っていた。けれど、やっぱりそれだけじゃ駄目なんだ。澪も子どもも世界で一番愛しているのは俺だし、幸せにできるのも俺だけだ」
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次の日の仕事は、昨夜の話がずっと頭から離れなくて全然集中できなかった。
「高野さん寝不足? 今日はぼんやりしてることが多いね」
「ごめんなさい! 気を引き締めます」
木場さんに指摘され背筋を伸ばす。
「いやいや、注意じゃなくて心配だよ。昨夜眠れなかったの? 柊君のお世話で忙しいとか」
眠れなかったのは、樹さんのことで頭がいっぱいだったからだ。
真摯な眼差しなのに、どこか蠱惑的なのは昔と変わらない。別れ際、彼の吐息が名残惜しそうにそっと頬に触れた。唇の温度を感じるほどの際どい距離だった。キスをされたわけでもないのに、あれからその箇所がずっと熱を持っている気がして、何度も同じ場所を指でなぞっている。
突然、別れを告げた理由はわかった。やっぱり樹さんは心変わりをしたわけではなく、私の事を考えてそのような選択をせざるを得なかっただけだったんだと、当時の引き裂かれるような深い悲しみが慰められた気がした。
告白が嬉しくないわけがない。
この四年間、彼への気持ちは行き場がなく過去にしようと封印していたが、どうしようもなく惹かれてしまう思いが、堰を切ったように溢れてくる。
樹さんの声も匂いも、すべてが私の五感を刺激した。温かい腕に抱かれていると、まるで酔った時のようにふわふわと夢見心地になった。
すらりとした指が優しく触れるときの艶っぽさ、話しにくいことがあると、肩眉を少しだけ下げる癖……すべてが当時のままで、もう二度と叶わないと思っていた再会に、心臓は震えっぱなしだった。
家に帰り布団に入ってもその熱は冷めずに興奮したままで、やっとうとうとできたのは朝方になってからだった。寝不足ではあるが、疲労があるわけではなく色ボケのようなものだ。深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「いえ、ちょっと考え事しちゃったんです」
「ほんと? 疲れてるなら一日くらい柊君預かって遊んであげるから、どこかでリフレッシュするといいよ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。木場さんってほんと子ども好きなんですね。いつも声かけてくださってとても心強いです」
「子どもっていうか、柊君が好きなんだよ。なんたって高野さんの息子さんなんだから」
「ふふ、なんですかそれ」
面白い表現をする人だ。柊が一歳の時から知っているので親戚のおじさんのような気持ちなのかもしれない。
眠さなんて感じていなかったが、お昼を食べた後の午後はずんと体がだるくなった。ミスをしないようになんとかこなし、退勤をする。
「お疲れさま、この後は保育園だよね」
同時に仕事が終わった木場さんと一緒に、旅館の裏手へと続く砂利道を歩き従業員用の駐車場へ向かう。
「お疲れさまです。はい、柊のお迎えです。冷蔵庫からっぽだからスーパーも寄らなくちゃ」
「あ、じゃあさ。よかったら三人で夕飯を……」
木場さんの話の途中で、昨夜も見た黒塗りのセダンが視界に入りはっと足を止めた。