離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
また来ると言っても、東京からここまで車で片道二時間はかかる。樹さんだって忙しいだろうし、そんなすぐには無理だろう。
「――は? どういうことだ。君はあの男と付き合っているのか?」
急に気配が鋭いものに変わり、あたふたとする。
「ち、違うよ、何言ってるの。木場さんはそんなんじゃなくて、昔から柊とよく遊んでくれてるの。子どもが好きなんだよ」
樹さんとは元夫婦なだけなのだから、私に他に好きな人ができたって責められる謂れはないし、そんなに焦る必要は……本来ならばない。
「昔から……頻繁に? ふうん。澪は俺がいなくとも楽しくて過ごしていたんだな」
(樹さんだって美人秘書とずっと一緒にいたくせに)
そんな反論がすぐに浮かぶあたり、私もじゅうぶんに妬いていた。
「ひとりで世話するのは大変でしょって気を遣ってくれてるだけだよ……でも、そうね。悩んでた時は相談に乗ってくれたし、仕事でも何度も助けてもらって、優しい人よね」
これまで音沙汰なかったのに今ごろ急に現れて、浮気のように責められなくちゃいけないなんて理不尽だ。
こんな子どもっぽい反応をして呆れられないか、口に出すとすぐに後悔した。
少しむっとしたのが伝わったのか、樹さんは「間違えた」とため息をつき、感情を振り払うかのように前髪をかきあげた。
「すまない。澪を責めたかったわけじゃない。俺以外に頼る男がいたことがショックで……要するにやきもちだ。嫌な言い方をした」
じっと見つめられ、気にしていないという意味を込めてこくりと頷いた。
「これまで、ひとりにさせてすまなかった。大変な思いをたくさんしただろう。けれどこれからは、俺が澪の助けになるから、他の誰でもなく俺を頼って欲しい。澪が他の男と約束しているなど耐えられないし、週末も三人で会わせることは了承しかねる」
「そんな……約束を急にキャンセルするなんて失礼なことできないよ」
「では、俺も一緒に。四人で会おう」
「えっ、でも……樹さんの立場とか……会社を背負ってるんだし、私とのことが噂になるのよくないんじゃない?」
木場さんは言いふらすような人ではないけれど、ここは人口の少ない田舎町だし、誰かに見られたら、樹さんはすぐに噂になってしまいそうだ。
「俺は社会的に不道徳なことは何もしていない。澪を愛して、やり直したいと思っているただの男だよ。それに、澪と噂になれるのなら願ってもないことだ」
樹さんは付き合っていた時から、愛情をたくさん伝えてくれる人だった。けれど今の彼はさらに輪をかけて積極的で、昨夜から数えきれないほどの愛を囁かれている。
当時も何百回聞こうと慣れることはなくて、好きだと言われるたびに気恥ずかしさを隠せずにいた。樹さんはそれをわかっていて、わざと言っている節もあったが。
「ああ、変わらないな。そうやってすぐに恥じらう仕草が昔から可愛くて堪らなかった」
樹さんは、そっと懐かしげに目を細め幸せそうに微笑んだ。
途端に目の前の胸に飛び込み、迷いも捨てて世間体も考えずに私も変わらず、ずっと愛していたと衝動的に口にしそうになった。
――また、愛されたい。
でも、寸でのところでそれを飲み込む。だって、私は母親だ。ただ彼の腕の中で幸せを感じていればよかっただけの自分とは違う。柊のことを第一に考えてあげたい。
「もう、またそうやって揶揄うんだから」
無理に笑って、爆ぜそうな感情を誤魔化した。
「揶揄ってなどない。すべて本心だよ」
「……じゃあ、樹さんが大丈夫なら、四人で会いましょうか。公園でサッカーするだけだけど、本当にいいの?」
「ああ! もちろんだ」
木場さんも気さくな人なので、明日伝えればきっとOKしてくれるだろう。柊も遊んでくれる大人なら大歓迎のはずだ。
「あしたふたりには確認するけど、もし、どっちかが駄目だといったら違う日に改めてでいい?」
「無理強いはしないが……今回ばかりは仕方がない」
なんとか納得しようとしていて、呻りながらも渋々その条件を受け入れた。
時間と場所を伝えまた日曜日に会うことを約束すると、樹さんは余裕を取り戻したのか表情をやわらげた。
「毎日連絡をする」
「い、忙しいのに……?」
感情に振り回されないでしっかりしようと思った矢先、つい喜んでいる自分がいる。
そんなの、付き合い始めの恋人のようではないか。
「電話でもいいか? 澪の声を聞いた方が仕事も頑張れるんだ」
「……でられる時なら」
「そろそろ三十分です」
いつの間にかふたりの世界に浸っていており、突然割り込んできた声に体をびくっとさせる。
「……あ……」
そうだ、運転手さんも宮原さんもいたのに何をしているんだろう。恥ずかしさで全身が一瞬にして熱くなった。
「三十分経ちます。お子さんのお迎え大丈夫ですか」
もう一度聞かれ、やっと我に返る。
「――は? どういうことだ。君はあの男と付き合っているのか?」
急に気配が鋭いものに変わり、あたふたとする。
「ち、違うよ、何言ってるの。木場さんはそんなんじゃなくて、昔から柊とよく遊んでくれてるの。子どもが好きなんだよ」
樹さんとは元夫婦なだけなのだから、私に他に好きな人ができたって責められる謂れはないし、そんなに焦る必要は……本来ならばない。
「昔から……頻繁に? ふうん。澪は俺がいなくとも楽しくて過ごしていたんだな」
(樹さんだって美人秘書とずっと一緒にいたくせに)
そんな反論がすぐに浮かぶあたり、私もじゅうぶんに妬いていた。
「ひとりで世話するのは大変でしょって気を遣ってくれてるだけだよ……でも、そうね。悩んでた時は相談に乗ってくれたし、仕事でも何度も助けてもらって、優しい人よね」
これまで音沙汰なかったのに今ごろ急に現れて、浮気のように責められなくちゃいけないなんて理不尽だ。
こんな子どもっぽい反応をして呆れられないか、口に出すとすぐに後悔した。
少しむっとしたのが伝わったのか、樹さんは「間違えた」とため息をつき、感情を振り払うかのように前髪をかきあげた。
「すまない。澪を責めたかったわけじゃない。俺以外に頼る男がいたことがショックで……要するにやきもちだ。嫌な言い方をした」
じっと見つめられ、気にしていないという意味を込めてこくりと頷いた。
「これまで、ひとりにさせてすまなかった。大変な思いをたくさんしただろう。けれどこれからは、俺が澪の助けになるから、他の誰でもなく俺を頼って欲しい。澪が他の男と約束しているなど耐えられないし、週末も三人で会わせることは了承しかねる」
「そんな……約束を急にキャンセルするなんて失礼なことできないよ」
「では、俺も一緒に。四人で会おう」
「えっ、でも……樹さんの立場とか……会社を背負ってるんだし、私とのことが噂になるのよくないんじゃない?」
木場さんは言いふらすような人ではないけれど、ここは人口の少ない田舎町だし、誰かに見られたら、樹さんはすぐに噂になってしまいそうだ。
「俺は社会的に不道徳なことは何もしていない。澪を愛して、やり直したいと思っているただの男だよ。それに、澪と噂になれるのなら願ってもないことだ」
樹さんは付き合っていた時から、愛情をたくさん伝えてくれる人だった。けれど今の彼はさらに輪をかけて積極的で、昨夜から数えきれないほどの愛を囁かれている。
当時も何百回聞こうと慣れることはなくて、好きだと言われるたびに気恥ずかしさを隠せずにいた。樹さんはそれをわかっていて、わざと言っている節もあったが。
「ああ、変わらないな。そうやってすぐに恥じらう仕草が昔から可愛くて堪らなかった」
樹さんは、そっと懐かしげに目を細め幸せそうに微笑んだ。
途端に目の前の胸に飛び込み、迷いも捨てて世間体も考えずに私も変わらず、ずっと愛していたと衝動的に口にしそうになった。
――また、愛されたい。
でも、寸でのところでそれを飲み込む。だって、私は母親だ。ただ彼の腕の中で幸せを感じていればよかっただけの自分とは違う。柊のことを第一に考えてあげたい。
「もう、またそうやって揶揄うんだから」
無理に笑って、爆ぜそうな感情を誤魔化した。
「揶揄ってなどない。すべて本心だよ」
「……じゃあ、樹さんが大丈夫なら、四人で会いましょうか。公園でサッカーするだけだけど、本当にいいの?」
「ああ! もちろんだ」
木場さんも気さくな人なので、明日伝えればきっとOKしてくれるだろう。柊も遊んでくれる大人なら大歓迎のはずだ。
「あしたふたりには確認するけど、もし、どっちかが駄目だといったら違う日に改めてでいい?」
「無理強いはしないが……今回ばかりは仕方がない」
なんとか納得しようとしていて、呻りながらも渋々その条件を受け入れた。
時間と場所を伝えまた日曜日に会うことを約束すると、樹さんは余裕を取り戻したのか表情をやわらげた。
「毎日連絡をする」
「い、忙しいのに……?」
感情に振り回されないでしっかりしようと思った矢先、つい喜んでいる自分がいる。
そんなの、付き合い始めの恋人のようではないか。
「電話でもいいか? 澪の声を聞いた方が仕事も頑張れるんだ」
「……でられる時なら」
「そろそろ三十分です」
いつの間にかふたりの世界に浸っていており、突然割り込んできた声に体をびくっとさせる。
「……あ……」
そうだ、運転手さんも宮原さんもいたのに何をしているんだろう。恥ずかしさで全身が一瞬にして熱くなった。
「三十分経ちます。お子さんのお迎え大丈夫ですか」
もう一度聞かれ、やっと我に返る。