離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
2、二度目の恋
次の日曜日、私は柊と樹さん三人で海浜公園にいた。
樹さんのことは昔からの知り合いだと説明をし、木場さんも一緒に遊ぶことを了承してくれていたのだが、今朝になり体調が悪いと連絡がきてキャンセルとなった。
柊は樹さんに人見知りしないか心配していたが、背の高い樹さんに肩車をしてもらったのが楽しかったようですぐに打ち解けた。
「じゃあ、おれがみっどひるだーで、いっくんがでぃへんだーね!」
柊が一生懸命指示だししているのは、サッカーのポジションのことだ。
自分がミッドフィルダーで、樹さんがディフェンダーだと言いたいらしい。
さっきまで散々パス回しをしていたが、今度は試合形式でやることになった。
最初は私も参加していたが、どうにも体力がついていかなく序盤でリタイアし、木陰から応援となっている。
「柊! あと十分だけゲームしたらお昼にしようね」
「うん!」
放っておくと休みなく遊び続けてしまう。
ふたりが戻ってきたらすぐにご飯を食べられるように、レジャーシートを広げ、用意していたお弁当を準備した。
きっかり十分遊ぶとふたりはサッカーを終わりにして戻って来た。
「おなかすいたー! うわあおかずたくさん!」
柊がレジャーシートに勢いよく転がった。
「手を拭いてからだよ」
ウェットティッシュで手と土で埃っぽい顔を拭いてあげる。
「こんなに作ってくれたのか。大変だっただろう、ありがとう」
木場さんから連絡もらった時は、お弁当を作り終えてしまっていて、実はひとり分多いのだ。
たくさんと言っても、卵焼きに焼くだけのたこさんウインナー。茹でただけのブロッコリーに、昨晩用意したから揚げ、それにおにぎりを握っただけだ。
おにぎりは一口サイズの小さいものにし、しゃけ、昆布、ふりかけと何種類も用意するのが我が家の定番だ。
「今朝は早起きだったんじゃない? 疲れたでしょ、たくさん食べてね」
せっかくの休日なのに、東京から車で二時間も運転してきてくれた。そこからずっと柊と遊んでくれているのだから、すごい体力だ。到底、私には真似できない。せめてお弁当くらいはと作ってみたが、樹さんはおにぎりでよかっただろうか。
「そうでもないよ。澪と柊君に会えるのが楽しみで、ドライブは全然苦じゃなかった。いただきます」
樹さんは水分補給をしてからお箸を取ると、卵焼きに手を伸ばした。
「いただきまーす!」
柊は大きな口を開けてからあげにかぶりつく。
「美味しい?」
「うん! ママのおべんとだいすき」
ニコニコ顔で頬張る柊に対して、樹さんはひと口をゆっくり咀嚼してこくりと飲み込んだ。
まだ半分お箸に残ったままの卵焼きをじっと見つめる。
(卵の殻があったかな……それとも変な味でもしたかな)
「口に合わなかったら残してね」
声をかけると、時が止まっていたようだった樹さんは、はっと顔をあげた。
「違う。懐かしくて感動していたんだ。また、君の卵焼きを食べられる日がくるなんて。ほんのり甘くて、出汁もふわっと香るこの味が好きだった……嬉しいよ」
残りの半分も大切そうに味わっていた。
「いっくん、ママのりょーりすき? ママのごはん、せかいいちだね」
「ああ、そうだな。柊のママは料理が上手だ」
樹さんが褒めると、柊は得意げな顔をした。
「びじんでりょーりもじょーずだから、ママにんきなんだよ」
「なんだって? 人気?」
樹さんがぴくりと反応する。
「うん。いっくんもママがすきでしょ。でもママをしあわせにできるっておれがみとめたやつじゃないと、けっこんさせないからな!」
いきなりの騎士宣言に、私は食べていたおにぎりで噎せそうになり、樹さんは目をまんまるにした。
「柊はしっかりものだ。それにお話が上手だな」
「そうなの。すごく大人びてて男らしいの。すごく気が回る子だなって感心することがある」
物心ついた時から、なにかと小さな体で私を守ろうとしてくれる。
ふたりでお出かけした時、柊は疲れてもおんぶや抱っこをねだろうとせず、『ママもあしいたいでしょ』と一生懸命歩き、私が荷物をたくさん持っていれば『オレがもってあげる』と優しさを見せてくれる。
二歳の時に初めて見た特撮ヒーローで、お姫様を悪から守るヒーローが主役の物語に夢中になった。いまでも嵌っていて柊の服やおもちゃはそのキャラクターばかりだ。それからだろうか、〝ママを守るのは俺だ〟と思ってくれているようで、幼いながらもとても頼もしい存在だ。
あなたに似たんだよ、とはその場では言えなかったが考えは伝わったようで、樹さんは目を瞬かせた。それから柊を眺め柔らかく微笑む。