離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
父親らしい温かい眼差しに胸が切なさで苦しくなった。
じわりと目元が熱くなり、気を抜けばすぐにでも涙が零れそうなほど涙腺は緩くなっていたが、ちょうど爽やかな風が吹き、それでなんとか乾かして誤魔化した。
「ところで、ママが人気ってどこの誰に? 教えてくれないか」
樹さんはふと真剣な顔になり柊に探りをいれる。
「あ、樹さんってば……」
「うんとね~、ほいくえんのたなかせんせーでしょ。あときばさんと、おさかなやさんのおにいちゃんも! みんなねー、ママとけっこんしたいんだよ」
「そんなに……」
指折り数える柊に、樹さんは絶句する。
「いやいやいや! 真に受けないで。そんなわけないじゃない」
「澪は自分の息子の発言を信じないのか?」
「そういうわけじゃないけど、でも、だって……」
離婚歴ありの子持ちに、そんなモテ期が来るわけがない。確かにみんな顔見知りで会えば楽しく会話をさせてもらっているけれど、男女の雰囲気になどなったことはない。
「みんなねー、ママのすきなものはなあに?ってきいてね、しゅーくんのパパになりたいなっていうの」
すべて初耳だ。子どもにそんなことを聞かせていたなんて、親として情けなさすぎる。
悪気はないとは思うが、父親の話は子どもにとっては少しばかりセンシティブな問題ではないだろうか。
しかし柊はなんともなさげに、お弁当をぱくぱく食べながら話した。
「それで、柊はいつもなんて答えてるんだ?」
「オレがみとめたおとこじゃないと、ゆるさないっていってる」
誇らしげに言うので、樹さんも私も噴き出した。
「そうか! それは頼もしいな」
「もう、柊ってば」
ひとしきり笑うと、樹さんは柊に提案した。
「柊の言う通り、俺も君のママが大好きなんだ。これからママにも柊にも認めて、もらえるようにがんばるから、柊が許せる男かどうか見張っていてくれないか」
「いっくんを?」
「そうだ。許してもらえるまでたくさん会いたい。会わせてもらうその間、ママに近づく不届きものがいたら、俺もいっしょにやっつけて守ってあげよう。どうだ? ふたりでママを狙う奴から守らないか?」
「いいよ! いっくんおっきーし、つよそーだもんな! あとオレといっくんここいっしょだから、とくべつにゆるしてあげる」
柊が指さしたのは耳だった。ふたりの耳を見比べると、上部が尖った特徴があり、同じ形をしていた。
「ここねー、みて。さんかくなの。とんがってるひとは、あたまがいいんだって、おしえてもらったんだ! でもなかなか、おなじひとみつかんないんだよな。いっくんはオレのなかま!」
「――ああ、俺たちは仲間だ」
樹さんは自分の耳を触りながら、抑えきれない喜びを滲ませた。
***
その後、次の週はもう一度公園でサッカーをし、さらにその次の週は植物園に連れて行ってもらった。その次は樹さんの仕事の都合で会っていなくて、先々週は海岸で遊び、先週は動物園へ出かけた。
再会してから早いもので、一ヶ月半程経とうとしている。
今日も公園に行く予定だったがあいにくの雨だったので、私は思い切って樹さんを家に誘った。
樹さんは提案した時は驚いたようだったが、すぐに「ぜひ」と頷いた。
両親は仕事と外出で留守だが、樹さんに再会した経緯とやり直そうと言われている理由を話し、家に招くことは伝えてある。お母さんは
『やっぱりねえ。不誠実なことするような人には見えなかったから、何があったのかと思っていたけど……そんな事情があったのね』
と驚いていた。
付き合っていた時、樹さんへの信頼度はとても高かったから、当時も何かの間違いではないかと言われたほどだった。
どんな事情があったにしろ、私が辛い思いをしたのは無かったことにできない。それでもまだ彼と一緒にいたいと思うなら、思う通りにすればいいと言ってくれている。