離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
リビングのソファに座ってもらうと、柊にはオレンジジュースを、樹さんには温かい玄米茶を出した。
柊は毎週思い切り遊んでくれる樹さんにすっかりなついており、ぴったりとくっついて座った。
「香ばしくていい匂いだ。ほっとするな」
「樹さん、少し疲れているみたいだから、ノンカフェインがいいかなって。コーヒーばっかり飲んでるでしょ。胃も休めたほうがいいよ」
ただでさえ仕事が忙しいだろうに、毎週ここまで片道二時間かけて通ってくれていて、休日のたびに遠出をしていたら体調を崩してしまわないか心配だ。
とくに今日は、いつもは午前中にくるけれど、今日は少し遅れると連絡があり、お昼を過ぎてから到着した。あまり顔色がよくないようにも見える。
「バレたか。この間、宮原にもカフェインばかり摂取して不健康だと叱られたばかりだ」
仕事中はほぼずっと行動を共にしている宮原さんの名前が出て、ぴくりと触手が動く。樹さんは私を好きだと言ってくれているし、宮原さんとは単なる仕事仲間なのは承知している。それでも、会えていなかった四年の間、ずっと彼を支えてきた人なのだと思うと、ついモヤモヤとした気持ちが込み上げてしまうのだ。
(まぁ、返事を保留にしておいて、嫉妬する権利なんてないんだけどね……)
「ねぇねぇ、きょうはこれやろ」
柊は本棚から本を取り出し持ってくる。クロスワードや塗り絵をしながら謎解きをし、読み進めていくクイズの本だ。
「お、こういうの俺も大好きだ。よし、一緒に解こうか」
私も参戦して三人でわいわいしながらなぞなぞを解いていった。真剣な表情をしたふたりがそっくりで、ずっと見ていたくなる。
――こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
いつの間にかそう願うようになっていた。柊と樹さんはとても気が合うようで、たとえば食べたいものを聞くとふたりの意見は一緒だし、感情のポイントも似ていて、ふたりでお腹を抱えてケタケタと笑う場面が何度もあった。
一時間ほど遊ぶと柊は飽きてしまい、次はアニメ映画をみることになった。
いつもならお昼寝の時間だけど、先週から「いっくんとみたい」といっていたお気に入りの映画で、まだ眠くないと言い張るので鑑賞タイムとなった。
せっかくなので映画館のようにポップコーンを用意し、部屋を少し暗くする。
柊は樹さんの膝に乗り、後ろから抱っこしてもらうのがうれしいのか、足をブラブラと揺らす。
「ママはこっちね」
柊が指さしたのは樹さんのとなりだ。
座ると柊がそでを引っ張って、私の手を自分の膝に乗せる。
自動的に樹さんに密着するような体勢になり、初めて手を繋いだ時の緊張と鼓動が蘇ってくるようだった。
映画が始まり柊が夢中になると、背中にすっとあたたかい空気が通って肩に手が置かれる。はっとして横を見ると、樹さんが「少しだけ」と私にだけ聞こえるように囁いた。
手の平の触れたところからじんわりと熱が伝わり、私はそれだけでドキドキが止まらないのに、樹さんは楽しそうで指に髪の毛をくるくると絡めて遊びだす。
「くすぐったい……」
「こうしてると、癒されて疲れが吹き飛ぶんだ」
樹さんはゆっくりと息を吐き、安堵の笑みをこぼした。
そんな心からリラックスしているように言われると邪険にできないではないか。
「もう……」
昔から実は策士で甘え上手なのを知っている。表面上はそう口にしつつも、実のところ彼の温もりは嫌ではなかった。むしろ足りないくらいでずっとこの腕の中にいたいとさえ思った。
気が付けば、樹さんの腕の中で柊が眠ってしまっている。
「寝ちゃってる……。あったかいなぁ」
スースーと穏やかな寝息に、樹さんは頬を緩ませた。
「重いでしょう。お布団準備するね」
ずっと膝の上に乗りっぱなしだし、子どもは寝ると重くなったように感じるので、足が疲れてしまうだろう。
「いや、いいよ。もう少しこのままで。澪ももっとこちらに」
立ち上がろうとしたが肩をぐっと引き寄せられ、樹さんにもたれかかるような体勢になった。
「樹さん……」
視線を向けると、近距離に樹さんの顔があって小さく息を呑んだ。鼻先が触れそうなほどだ。
「すぐに顔が赤くなるの変わらないな。可愛い」
「からかわないでよ。恥ずかしいんだから」
「からかってなんかいない。こうしていられることが嬉しくて、少しばかり浮かれてはいるけれど」
互いのおでこがコツンと触れる。
全身が火照っていることに気が付かれやしないかソワソワとした。
「キスをしたい。澪、こちらを向いて」
見れば、樹さんの目の奥がいつのまにか艶めいたものに変化していて、突然向けられた熱に戸惑った。
「だ、駄目だよ。柊がいるんだし……」
「柊は寝ているから大丈夫。澪は、したくない? 嫌ならしない」
ぼそぼそと、低く響く色香を帯びた声に胸が騒めく。
柊は毎週思い切り遊んでくれる樹さんにすっかりなついており、ぴったりとくっついて座った。
「香ばしくていい匂いだ。ほっとするな」
「樹さん、少し疲れているみたいだから、ノンカフェインがいいかなって。コーヒーばっかり飲んでるでしょ。胃も休めたほうがいいよ」
ただでさえ仕事が忙しいだろうに、毎週ここまで片道二時間かけて通ってくれていて、休日のたびに遠出をしていたら体調を崩してしまわないか心配だ。
とくに今日は、いつもは午前中にくるけれど、今日は少し遅れると連絡があり、お昼を過ぎてから到着した。あまり顔色がよくないようにも見える。
「バレたか。この間、宮原にもカフェインばかり摂取して不健康だと叱られたばかりだ」
仕事中はほぼずっと行動を共にしている宮原さんの名前が出て、ぴくりと触手が動く。樹さんは私を好きだと言ってくれているし、宮原さんとは単なる仕事仲間なのは承知している。それでも、会えていなかった四年の間、ずっと彼を支えてきた人なのだと思うと、ついモヤモヤとした気持ちが込み上げてしまうのだ。
(まぁ、返事を保留にしておいて、嫉妬する権利なんてないんだけどね……)
「ねぇねぇ、きょうはこれやろ」
柊は本棚から本を取り出し持ってくる。クロスワードや塗り絵をしながら謎解きをし、読み進めていくクイズの本だ。
「お、こういうの俺も大好きだ。よし、一緒に解こうか」
私も参戦して三人でわいわいしながらなぞなぞを解いていった。真剣な表情をしたふたりがそっくりで、ずっと見ていたくなる。
――こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
いつの間にかそう願うようになっていた。柊と樹さんはとても気が合うようで、たとえば食べたいものを聞くとふたりの意見は一緒だし、感情のポイントも似ていて、ふたりでお腹を抱えてケタケタと笑う場面が何度もあった。
一時間ほど遊ぶと柊は飽きてしまい、次はアニメ映画をみることになった。
いつもならお昼寝の時間だけど、先週から「いっくんとみたい」といっていたお気に入りの映画で、まだ眠くないと言い張るので鑑賞タイムとなった。
せっかくなので映画館のようにポップコーンを用意し、部屋を少し暗くする。
柊は樹さんの膝に乗り、後ろから抱っこしてもらうのがうれしいのか、足をブラブラと揺らす。
「ママはこっちね」
柊が指さしたのは樹さんのとなりだ。
座ると柊がそでを引っ張って、私の手を自分の膝に乗せる。
自動的に樹さんに密着するような体勢になり、初めて手を繋いだ時の緊張と鼓動が蘇ってくるようだった。
映画が始まり柊が夢中になると、背中にすっとあたたかい空気が通って肩に手が置かれる。はっとして横を見ると、樹さんが「少しだけ」と私にだけ聞こえるように囁いた。
手の平の触れたところからじんわりと熱が伝わり、私はそれだけでドキドキが止まらないのに、樹さんは楽しそうで指に髪の毛をくるくると絡めて遊びだす。
「くすぐったい……」
「こうしてると、癒されて疲れが吹き飛ぶんだ」
樹さんはゆっくりと息を吐き、安堵の笑みをこぼした。
そんな心からリラックスしているように言われると邪険にできないではないか。
「もう……」
昔から実は策士で甘え上手なのを知っている。表面上はそう口にしつつも、実のところ彼の温もりは嫌ではなかった。むしろ足りないくらいでずっとこの腕の中にいたいとさえ思った。
気が付けば、樹さんの腕の中で柊が眠ってしまっている。
「寝ちゃってる……。あったかいなぁ」
スースーと穏やかな寝息に、樹さんは頬を緩ませた。
「重いでしょう。お布団準備するね」
ずっと膝の上に乗りっぱなしだし、子どもは寝ると重くなったように感じるので、足が疲れてしまうだろう。
「いや、いいよ。もう少しこのままで。澪ももっとこちらに」
立ち上がろうとしたが肩をぐっと引き寄せられ、樹さんにもたれかかるような体勢になった。
「樹さん……」
視線を向けると、近距離に樹さんの顔があって小さく息を呑んだ。鼻先が触れそうなほどだ。
「すぐに顔が赤くなるの変わらないな。可愛い」
「からかわないでよ。恥ずかしいんだから」
「からかってなんかいない。こうしていられることが嬉しくて、少しばかり浮かれてはいるけれど」
互いのおでこがコツンと触れる。
全身が火照っていることに気が付かれやしないかソワソワとした。
「キスをしたい。澪、こちらを向いて」
見れば、樹さんの目の奥がいつのまにか艶めいたものに変化していて、突然向けられた熱に戸惑った。
「だ、駄目だよ。柊がいるんだし……」
「柊は寝ているから大丈夫。澪は、したくない? 嫌ならしない」
ぼそぼそと、低く響く色香を帯びた声に胸が騒めく。