離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
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「いっくん、かえっちゃやだー!」
お昼寝から目が覚めた柊は、めずらしく駄々を捏ねた。樹さんにしがみ付き涙を浮かべている。
柊はふんぞり返って泣くようないやいや期が殆どなく保育園ママにはうらやましがられる反面、私が未熟なせいで我慢をさせてしまっているのではないかと心配に思うこともあった。
これまでは元気にバイバイできていたのに。今日は一体どうしたんだろう。
もうすぐ夕方になるので、両親も帰ってくる時間だ。窓の外を見ると、昼間より雨も激しくなっていた。天気予報ではこれから朝方にかけて荒れ模様になるようで、雨風が強い中、高速道路で帰らなくてはならないのは心配だ。
「柊、どうしたの? なんで嫌なの?」
樹さんは仕事だからと、大人の都合を振りかざして説得するのは、なんとなく避けたかった。これまで何度もその理由で我慢させてきたし、きっとこれからも同じようなことはある。
頭をなでると、顔をくしゃくしゃにしながら頷いた。
「だって、おうちきたから、おとまりするっておもって。ママのおともだちきたのはじめてでしょ」
そういえば柊の友達以外で、この家に誰かを招いたのは初めてだ。両親と同居しているからという理由もあるが、なんとなく樹さん以外の人が柊と私の世界に入ってくるのを拒んでいたからかもしれない。
「そっか。寂しいんだね」
「ママもいっくんいるとうれしいでしょ。オレ、いっくんともっとあそびたいもん」
「破壊力半端ないな……」
うるうるとした上目使いに心臓を撃ち抜かれたようで、樹さんは目元を覆って天井を仰いだ。
どうしようかと悩んでいると、スマホに着信がある。
「お母さんだ」
断りをいれて通話に出ると、すぐにお母さんの焦った声が聞こえてきた。
近くの旅館で電気系統の不具合があったようで宿泊が難しくなり、両親の勤める旅館で急遽宿泊客を受け入れることになった。人手が足りないので、引き続き夜勤も働くことになったそうだ。
『お父さんもお母さんも今夜は帰れないから、戸締りよろしくね』
慌ただしく電話は切られた。
「何かあった?」
「今日、ふたりともトラブルで帰れなくなったみたいで」
事情を話すと、樹さんは少し思案する。
「迷惑でなければ、一晩泊まらせてもらっても?」
「いっくんおとまりするの!」
私が答えるより早く、柊がバンザイした。
「あ、こら柊。樹さん、今夜帰らなくても大丈夫なの?」
「明日は休みなんだ、明後日は九州で視察があるから前乗りできればと思っていた程度で、べつにここからでも仕事にはいける。この大雨の中、帰ってほしいなら無理にとはいわないけどね」
また断れないような言い方をする。
樹さんは疲れが見えるから、悪天候の中の長距離移動は心配だ。両親は留守だし、柊も泊まってほしいと思っている。
ひとつひとつ、ゆっくりと理由を考えてから頷いた。
「……よかったら、泊まっていって」
「ありがとう。そうさせてもらう」
ゆるゆると上がる頬を目の当たりにする。
喜びを示されて、私もつられて笑顔にならずにはいられなかった。
理性的になろうといろいろ考えたが、実のところ一番の理由は、もっと一緒にいたいというシンプルなものだった。