離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
翌週の金曜日、仕事を終えて帰ろうとすると、駐車場で木場さんに呼び止められた。

「高野さん、ちょっといい?」

「お疲れさまです。どうかしたんですか?」

「あの、この間の人……」

木場さんとはサッカーが体調不良でサッカーをできなかった日から、休みの日程があわなかったり、樹さんと約束をしてしまっていたりして時間を作れていない。

実のところ、他の男と会わないで欲しいと言われているのがなによりもの事情ではあるが、木場さんは同僚として誘ってくれいるのに、そんな自意識過剰な理由を言うのは憚られ、最近では曖昧に濁して誘いを断っていた。

「樹さんですか? 彼がなにか」

木場さんは視線を彷徨わせ、やけにそわそわとしている。どうしたのかと聞こうとしたら、突然手首を掴まれた。指が食い込むほどの強い力に、一瞬で怯えが襲ってきた。

「き、木場さん?」

「僕は高野さんがずっと好きだったんです。柊君に信頼され父親のようになれたら、きっと高野さんも僕を認めてくれる。そう思って接してきました」

愛の告白、のような爽やかなものではなかった。うらみつらみを吐き出すように、木場さんは続ける。

「少しずつ距離を縮めて、ふたりの時間を大切に育んできました。それなのに急にあいつが現れて……! 僕がこんなに愛しているのに高野さんはあの男を選ぶんですか」

「木場さん……ちょっと待ってください」

掴まれた腕を引いてみるが、ほどけない。

「先週末、あの男と何していたんですか」

「え?」

「あの男が高野さんの家に泊まったでしょう。ちくしょう、僕は家に呼んでくれなかったくせに」

「どうしてそれを――……」

樹さんが泊まると決まったのは土曜日の夕方で、外はすでに大雨だった。あの天気の中、木場さんは家の外で見ていたということ?

家の場所はだいたいなら知っているだろうが、詳細な住所までは教えたことはない。

職場の従業員名簿で調べたか、家まで付いてきたかのどちらかだ。

(いったい、この人は誰なんだろう)

これまでの穏やかな彼はどこにもおらず、木場さんから感じるのは狂気だ。
体が震え出す。

「あの、落ち着いてください。彼は元夫なんです。柊の実の父親で……だからっ……」

だから、なんだというのか。〝だから、彼は特別で〟 そういえば、納得してもらえる?

これを言うのが正解なのかわからないが、他に何をどう言えばいいのか言葉が出てこない。

「父親……?」

木場さんが抑揚のない声でぽつりと言う。
俯いて、表情が読み取れないことが不安をかきたてた。

「柊君の父親になるのは僕だ。高野さんが頼るのも僕なんだよ」

誰に向けるでもなく、低く呟く。焦点があっていないようで怖かった。すぐにでもここを離れたい。どうにか方法がないかとなんとか冷静になろうとしていると、遠くから声が聞こえた。

「木場さーん! 団体さんがみえましたので、ご対応お願いしまーす!」

木場さんはびくっと体を揺らし、ゆらりと顔を上げた。
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