離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
4、二回目のプロポーズ
木場さんはあの日以来、いたって普通だった。仕事中に遭遇してしまった時呼び止められ、申し訳なさそうに謝ってくれた。

『高野さん、あの日は興奮しちゃってごめんね……ずっと前から好きだったんだ。だからつい……』

これまで通り穏やかな雰囲気だったから、もう気持ちは落ち着いてくれたのだと思った。
これまでの感謝と、気持ちには応えられないことをきっぱりと伝え、その後は何事もなく過ごした。

樹さんはまだ用心するようにと言い、仕事でずっと傍にいられないことを歯痒がっていたが、かわりに柊が私を守ろうと張り切ってくれた。

お気に入りのおもちゃである、拳銃を模した特撮ヒーローの武器を持ち歩き、保育園の登下校も周囲に鋭い視線を走らせながら、勇ましい顔で闊歩する。

樹さんの言う通り、年齢以上に物事をよく理解していた。

お迎えにいくと、「ママだいじょーぶだった?」と毎回声を掛けてくれる優しさに、胸がいっぱいになるのと同時に、本当に聡い子だと誇らしい気持ちも芽生えた。


そうして、私と柊が東京に行く日が来た。

樹さんは車で迎えに来ると言ってくれていたが、さすがにそこまで甘えていられない。柊の経験にもなるので電車と新幹線を乗り継いで行くことにした。

高層ビルの高さと東京駅の広さに圧倒され、柊は口をあんぐりと開きっぱなしで興奮した。

「いっくんよりおっきいひとがいる……!」

大きなスーツケースを転がす外国人観光客を見上げ、目を輝かせた。

深井ホテルで働いていたころを思い出し懐かしくなる。東京の空気を吸うのは離婚して以来、久しぶりだった。

「樹さん、改札で待っていてくれるって」

着替えとおもちゃをパンパンに詰め込んだリュックサックを背負った柊の手を引いて、待ち合わせの場所へ向かう。柊の片方の手には、定番になりつつある特撮ヒーローの銃が握られていた。

遠出したからだろうか、これまで毎週会っていたのに今日は特別に心が弾んだ。

都内に住んでいたころから東京駅はそれほど多くは利用していなかったし、四年ぶりともなるとすっかり記憶は薄れ、迷路のような駅構内で看板を頼りに歩いた。

「ここの改札であってるっけ……? あれえ、樹さんいないね?」

指定された改札を出たが、樹さんの姿が見えない。間違えたのかもしれないと、もう一度待ち合わせ場所を確認しようとスマホを取り出した。

メッセージと改札の名前を確認し、出口が違うようだと気が付く。

「しまった。八重洲口と丸の内口間違えたみたい」

改札を間違えて反対側に出てしまった。少し遅れると樹さんにメッセージを送信した直後、真後ろから声がかけられた。

「高野さん」

その声に振り向いた時、心臓が止まるかと思うほどの恐怖が一気に襲ってきた。

「っき……木場さん……なんで」

今日は勤務日のはずの木場さんが、どうしてここにいるんだろう。

これまで人当たり良さそうに見えていた笑顔が不気味で仕方がない。

「なんでって、東京行くって言ってたから。僕も一緒に行こうと思って」

今日東京に来ることは両親以外、誰にも言っていない。

「ずっと、つけてきたんですか?」

「違うよ、電車の時間も全部教えてくれたじゃないか。柊君、今日は遊園地の特撮ヒーローショーを見に行くんだろ? おじさんと行こう。グッズをたくさん買ってあげるよ」

柊に一歩近づいたので、慌てて抱っこして後ろに下がった。
柊もびっくりしたまま声を出せないでいる。

「高野さん、怖がらなくて大丈夫。僕たち結婚するんだよ。僕は柊君のお父さんになってあげるんだから」

「わ、私、あなたに何も話してませんよね? どうやってここまで……」

「高野さんの声を聞くのは日課なんだ。最近は寝室にも持ち込んでくれていたから、よく聞こえて」

木場さんが指さしたのは、柊が抱きしめていた特撮ヒーローの武器だった。柊は私を守ろうと、最近は枕元にも置いていた。そしてベッドの中で、楽しみだねとスケジュールについて会話をした。

(そういえば、これって木場さんがプレゼントしてくれたものだ)

――何か、細工をしている。

それに気が付いた時、「ひっ」と小さな悲鳴が漏れた。

柊にもおもちゃが危ないものだったことが伝わったらしく、おもちゃから手を離しうわーんと泣いた。
じりじりと後ろに下がりながら、走り出す機会を伺う。

(樹さんに電話を……)

横目に、開きっぱなしだったメッセージアプリの通話ボタンに指をかける。

「高野さん」

伸ばされた腕から逃げようとしたら、ちょうど後ろを通りがかった人とぶつかりよろけた。

その隙に腕を掴まれ、手に持っていたスマホを落としてしまう。スマホは回転しながらからからと床をすべり、数メートル先で止まった。

「柊、走って!」

咄嗟に柊を降ろし、逃げるように促した。
周囲の人達が、何事かとこちらに注目し始める。
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