離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます

***

その後は、すぐに駅員と警察が駆けつけ、その場の騒動は収まった。

事情聴取で警察署に行くことになり半日が潰れてしまったが、木場さんの様子がおかしいと気が付いてから今日まで、気の休まらない毎日を過ごしていたから決着がついてほっとしている。

木場さんは暴行罪でその場で現行犯逮捕となった。つきまといや盗聴などの監視行為もあったので、これから司法の裁きを受けることになる。

夕食を終えて、私たちは結婚当時くらしていたマンションへ向かった。このマンションは結婚と同時に購入した分譲マンションだ。もうとっくに売りに出したと思っていたのに。

「お邪魔します……」

元々は自分の家なのに、他人行儀に入るのは少し胸がちくっとした。でも、他になんていっていいかわからなくて、そういうしかなかった。

リビングに行くとその光景に、言葉にできない感情が胸に満ち、ただ部屋を茫然と見つめた。

「嘘……変わってない……」

暮らしていたころと、家具も小物の位置も何一つ変わっていなかった。まるで、ついさっきまで私たちが暮らしていたかのように、その部屋は存在している。

「他の部屋も見ていい?」

「もちろん」

ぽつりと聞くと、樹さんは微笑みながら小さく頷いた。

キッチンの食器の位置、洗面所には私が置いていった化粧品やコップが。すべて、当時のままだ。唯一変わっていたのは、使っていなかった洋室だ。

いつか子ども部屋にできたらと思って空けていた部屋が、柊の服やおもちゃでいっぱいになっていた。
最後に夫婦の寝室へいく。

「どうして……」

「どうしても捨てられなかったんだ。物じゃないよ。澪、君がいた痕跡をだ」

寝室も何も変わっていなかった。大きなベッドが部屋の真ん中にある。子どもができたら広い方がいいのだからと、結婚当初から一番大きいキングサイズを選んで置いていた。

驚きと言いようのない感情が胸の奥で混ざり合って、鼻がつんとした。

「澪のいなくなった世界は空虚で、情けない話、当時はこれからどう生きていけばと悩むほど落ち込んだよ。わずかでも澪を感じていたくて、ずっと変わることができずにいたんだ」 

バルコニーに続き、ブラインドカーテンが開いたままの寝室の窓からは、木々の影が溶け込む夜空が見える。ネオン煌めく街ではなくて、ちょうどその方角に公園があって静かな夜を過ごせる立地が気に入り、この部屋に決めたのだった。

懐かしくてその場を動けずにいると、後ろから抱きしめられた。

その瞬間、ぽろりと涙が零れる。

「ママないてるの……?」

心配そうな柊の声に、はっと滲んでいた滴を拭った。
「ごめんごめん、ちょっと感動してたの。実はね、ここ昔ママが住んでたお部屋なんだ」
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