離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
「じゃあ、えっと、すきなおうちだね」
きっと懐かしいね、というニュアンスで言ってくれていて、思わず笑みがこぼれる。
「うん。好きなお家だよ」
抱っこし外を見せてあげると、柊は空や周囲の景色を夢中で見た。
「うわあ、たかいね~」
「柊、今日は約束した遊園地に行けなくてごめんね。怖い思いもしたし、お巡りさんのところにもずっといなくちゃで疲れたよね」
私の判断が甘かったせいで、こんな幼い子に怖い思いをさせてしまったし、楽しみにしていた予定も延期だ。柊もたくさん泣いた。せっかく楽しい思い出になるはずの旅行が、トラウマにならないだろうか。
申し訳なく思っていると、柊はあっけらかんとした様子で答えた。
「ぜーんぜん! オレね、おまわりさんにほめられたんだよ!」
「そうなの?」
「たすけてっていえて、えらかったねって!」
そんな会話があったのを知らなくて樹さんのほうを見ると、樹さんは知っていたようで「ああ、そうだな」と柊の頭を撫でた。
「あの時スマホで撮影をしていた人がいたらしく、そこに助けを求める柊が映っていたんだ。話を聞いてくれた警察官に、たくさん褒めてもらったな」
「うん!」
柊は誇らしげに胸を張った。
「ママを守ってくれてありがとう。格好よかったぞ」
樹さんにも褒められて、柊はくすぐったそうにはにかんだ。
お風呂に入り疲れをとると、樹さんが用意してくれていた新しいパジャマに着替えてベッドに寝そべった。ベッド脇には本棚もあり、絵本が何十冊も詰まっていた。再会した時からこつこつ買い貯めていたらしい。
「柊のことを考えると、この服似合うだろうな、この絵本面白そうだなって思ってつい買ってしまうんだ。気がついたらたくさん溜まっていて」
(この部屋にひとりでいる間も、ずっと柊のことを考えてくれていたんだ……)
再会してからの私達は、次も会えるとは限らない、曖昧な関係だった。どうなるかわからない中、ずっと思い続けてくれていたことが嬉しい。
「おうちのよりおっきい!」
柊はコロコロと転がる。
「いいだろう。ここで暮らしたら毎日このベッドで寝られるぞ」
「じゃあ、ここにおひっこしする!」
樹さんは冗談交じりだったが、柊の積極的な返事に面食らいパチリと一度瞬きをした。
「保育園も変わっちゃうし、おじいちゃんとおばあちゃんとも離れちゃうよ?」
「いっくんがいい」
柊は樹さんに抱きついた。胸に額をぐりぐりと押し付け、満足そうに笑う。すると、すぐに瞼をとろんとさせた。やはり疲れていたようで、今日は絵本なしで寝てしまいそうだ。
これまで、こんなに甘える人はいなかった。遊んでくれる人に懐くとしたら、木場さんだってたくさん相手をしてくれていたのに何が違うんだろう。
「樹さんが、大好きなんだね」
「だって……ママがいっぱいすきでしょ」
柊は目をこすりながらむにゃむにゃと言うと、そのまますっと寝てしまった。
樹さんと私は寝落ちした柊を眺め、それから顔を見合わせて笑った。柊はなんでもお見通しのようだ。
〝私が、樹さんを好きだから〟
だから、こんなにも樹さんに信頼を寄せてくれている。
「明日……柊に話してもいいかな」
急に勇気が湧いて来て、ふとそう思った。
「樹さんと家族になりたいんだって、気持ちを伝えたいの」
いくら好意を持ってくれているとは言っても、突然父親になってもいいかと聞かれたら戸惑うに違いない。
――だけど。
この先も、ずっと三人で笑いあう生活を夢見た。
「ああ。決心してくれてありがとう」
「柊がどう思うかは正直わからなくて、樹さんを傷つけてしまうかも……」
「大丈夫だ。俺はどんな結果でも受け入れるし、たとえ書類や生活上の家族になれなくとも、柊を息子として愛する気持ちは変わらない」
樹さんは安心させるように柔らかく微笑むと、眠る柊を潰さないように慎重に身を乗り出す。
「俺が愛する人は、この先もずっと澪だけだ」
言葉と共に、唇に吐息がかぶさってきた。
ゆっくりと瞼を閉じて、それに応える。一度離れてもなんどもまた重ねて、それは次第に大胆になった。
啄む様なキスにうっとりとしていると、樹さんはベッドを振動させないようにゆっくりと離れ「おいで」と誘った。
「澪がほしい」
情熱的なセリフに、全身が熱を帯びる。
気持ちは一緒だ。
たくさん樹さんを感じたくて、その胸に凭れるよう抱きついた。
来客用の部屋に移動すると、すぐにキスを再開させる。樹さんは溜め込んでいた想いがあふれ出したといわんばかりに、深く唇を重ねた。
「澪、愛してる……」
何度も何度も繰り返される睦言に僅かな不安は消え、もたらされる甘い痺れに、心地よさと幸せな気持ちで満たされていった。
きっと懐かしいね、というニュアンスで言ってくれていて、思わず笑みがこぼれる。
「うん。好きなお家だよ」
抱っこし外を見せてあげると、柊は空や周囲の景色を夢中で見た。
「うわあ、たかいね~」
「柊、今日は約束した遊園地に行けなくてごめんね。怖い思いもしたし、お巡りさんのところにもずっといなくちゃで疲れたよね」
私の判断が甘かったせいで、こんな幼い子に怖い思いをさせてしまったし、楽しみにしていた予定も延期だ。柊もたくさん泣いた。せっかく楽しい思い出になるはずの旅行が、トラウマにならないだろうか。
申し訳なく思っていると、柊はあっけらかんとした様子で答えた。
「ぜーんぜん! オレね、おまわりさんにほめられたんだよ!」
「そうなの?」
「たすけてっていえて、えらかったねって!」
そんな会話があったのを知らなくて樹さんのほうを見ると、樹さんは知っていたようで「ああ、そうだな」と柊の頭を撫でた。
「あの時スマホで撮影をしていた人がいたらしく、そこに助けを求める柊が映っていたんだ。話を聞いてくれた警察官に、たくさん褒めてもらったな」
「うん!」
柊は誇らしげに胸を張った。
「ママを守ってくれてありがとう。格好よかったぞ」
樹さんにも褒められて、柊はくすぐったそうにはにかんだ。
お風呂に入り疲れをとると、樹さんが用意してくれていた新しいパジャマに着替えてベッドに寝そべった。ベッド脇には本棚もあり、絵本が何十冊も詰まっていた。再会した時からこつこつ買い貯めていたらしい。
「柊のことを考えると、この服似合うだろうな、この絵本面白そうだなって思ってつい買ってしまうんだ。気がついたらたくさん溜まっていて」
(この部屋にひとりでいる間も、ずっと柊のことを考えてくれていたんだ……)
再会してからの私達は、次も会えるとは限らない、曖昧な関係だった。どうなるかわからない中、ずっと思い続けてくれていたことが嬉しい。
「おうちのよりおっきい!」
柊はコロコロと転がる。
「いいだろう。ここで暮らしたら毎日このベッドで寝られるぞ」
「じゃあ、ここにおひっこしする!」
樹さんは冗談交じりだったが、柊の積極的な返事に面食らいパチリと一度瞬きをした。
「保育園も変わっちゃうし、おじいちゃんとおばあちゃんとも離れちゃうよ?」
「いっくんがいい」
柊は樹さんに抱きついた。胸に額をぐりぐりと押し付け、満足そうに笑う。すると、すぐに瞼をとろんとさせた。やはり疲れていたようで、今日は絵本なしで寝てしまいそうだ。
これまで、こんなに甘える人はいなかった。遊んでくれる人に懐くとしたら、木場さんだってたくさん相手をしてくれていたのに何が違うんだろう。
「樹さんが、大好きなんだね」
「だって……ママがいっぱいすきでしょ」
柊は目をこすりながらむにゃむにゃと言うと、そのまますっと寝てしまった。
樹さんと私は寝落ちした柊を眺め、それから顔を見合わせて笑った。柊はなんでもお見通しのようだ。
〝私が、樹さんを好きだから〟
だから、こんなにも樹さんに信頼を寄せてくれている。
「明日……柊に話してもいいかな」
急に勇気が湧いて来て、ふとそう思った。
「樹さんと家族になりたいんだって、気持ちを伝えたいの」
いくら好意を持ってくれているとは言っても、突然父親になってもいいかと聞かれたら戸惑うに違いない。
――だけど。
この先も、ずっと三人で笑いあう生活を夢見た。
「ああ。決心してくれてありがとう」
「柊がどう思うかは正直わからなくて、樹さんを傷つけてしまうかも……」
「大丈夫だ。俺はどんな結果でも受け入れるし、たとえ書類や生活上の家族になれなくとも、柊を息子として愛する気持ちは変わらない」
樹さんは安心させるように柔らかく微笑むと、眠る柊を潰さないように慎重に身を乗り出す。
「俺が愛する人は、この先もずっと澪だけだ」
言葉と共に、唇に吐息がかぶさってきた。
ゆっくりと瞼を閉じて、それに応える。一度離れてもなんどもまた重ねて、それは次第に大胆になった。
啄む様なキスにうっとりとしていると、樹さんはベッドを振動させないようにゆっくりと離れ「おいで」と誘った。
「澪がほしい」
情熱的なセリフに、全身が熱を帯びる。
気持ちは一緒だ。
たくさん樹さんを感じたくて、その胸に凭れるよう抱きついた。
来客用の部屋に移動すると、すぐにキスを再開させる。樹さんは溜め込んでいた想いがあふれ出したといわんばかりに、深く唇を重ねた。
「澪、愛してる……」
何度も何度も繰り返される睦言に僅かな不安は消え、もたらされる甘い痺れに、心地よさと幸せな気持ちで満たされていった。