離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
次の日は、前日のスケジュール変更を挽回すべく早起きをして出かけた。
遊園地で特撮ヒーローショーを観て、たくさんの乗り物に乗った。
夕方になると、横浜港近くのリコルヴィラホテル横浜に向かい、最上級の部屋に招待してもらった。
横浜のホテルは港と異文化がテーマになっており、ホテル外観は西洋館のような造りだが、内装はまるで船の中のようなデザインで、部屋はキャビンと呼ばれ船室を模していた。
柊は「おふねだ!」と大はしゃぎだ。
夕食はルームサービスで和洋折衷のコースを頼み、海の幸が味わえる料理を堪能した。
デザートはホテルコンセプトであるアルバムを模した本型のプレートになっていて、表紙部分の蓋を開くと、数種類のケーキ・タルト・和菓子が並んでいる。
おなかいっぱいになりながらも完食し、広いバルコニーで夜風を楽しみ、夜景を見ながらくつろいでいる時、私は柊に切り出した。
「柊にね、ママから大事なお話があるの」
少しドキドキとする胸を抑えて、ゆっくりと話す。柊は隣に立つ樹さんと手を繋いだまま、私を見上げて不思議そうにした。
「柊はいっくん大好きだよね」
「うん!」
「ありがとう、ママも樹さんが大好きなの。だからこれからね、もっといっぱい一緒にいられるように三人で暮らしたいなって思ってるの」
「くらす?」
「そう。そうすると一緒のお家で、ご飯も寝るのも樹さんが居てくれるよ」
柊はすぐに理解できないのか、パチパチと瞬きをした。
樹さんがしゃがんで目線を合わせる。
「俺はね、柊のパパになりたいんだ。どうかな」
「いっくんパパになるの?」
「なってもいいか? 柊のことが大好きだから、毎日傍にいられたらうれしい」
柊はすぐに答えずに、私と樹さんを交互に見た。
それから、しばらく口をとがらせ、言いにくそうにもじもじとしてからぽつりと言った。
「……パパってよんでいー?」
「――っ……」
息を呑む。
樹さんは一瞬何を言われたのか、飲み込むのに時間がかかったようで、言葉を詰まらせる。ゆっくりゆっくりその意味を噛みしめてから、少し声を震わせる。
「……もちろんだ」
柊は緊張していたのか、ゆるゆると顔を綻ばせた。
「柊、おいで」
樹さんが手を広げ、柊はうれしそうに腕の中に納まった。
「ありがとう。ありがとう、柊。大好きだ」
頬をすり寄せ、小さな温もりを感じながら感動に浸る。
私もずいぶん緊張していたらしい。全身に入っていた力が抜けると安堵したのか、涙がこみ上げる。
「澪もおいで」
優しく呼ぶ声に、吸い寄せられるように抱きついた。
一度は別れを選んでしまったけれど、やっぱり私には樹さんしかいない。再会して、また同じ時間を共有できるようになって改めてその存在の大きさに気づかされた。
腕の中は安らぎを感じた。
幸せな気持ちが胸の奥からじわじわと広がって、全身に満ちていく。
柊は樹さんの服をきゅっと握ると、夜空に溶け込んでしまいそうなほどの本当に小さな声で、「パパ」と呼んだ。
あんなにも喜びに満ちた涙を流したのは、いつ以来だろう。
泣いて、笑って。幸せを噛みしめ、再出発を誓った夜だった。
朝起きると、すでに樹さんの姿がない。
眠い目を擦り、まだ眠る柊を起こさないようにベッドを離れる。メインルームへ行き部屋を見回したが気配がない。
(仕事……? 外出でもしたのかな)
カーテンが開いた大きな窓からは爽やかな景色が広がっていた。夜景も素晴らしかったが、朝日を浴びる港と街も美しい。
今日は半日だけ観光をしてから帰る予定だ。
洗面所で顔を洗い、支度をしてメインルームへ戻ると、テーブルにはさっきはなかったはずのたくさんのプレゼントが置いてあった。
「これ……なに……?」
手のひらサイズから、大きな箱までパッケージもリボンも様々だ。
「澪、おはよう」
うしろから声をかけられ振り向くと、スーツ姿の樹さんが顔が見えなくなるほどの大きな花束を抱えて立っていた。
「樹さん……」
樹さんは窓際まで来ると、向かい合わせに立つ。朝日を受け淡く光る彼はいつもより凛々しく見えた。
「本当は、毎年渡すつもりだった」
チラリと、プレゼントの山に目を向ける。
「これ、私……に?」
「ああ。誕生日、クリスマス、結婚記念日に、いつも澪のことを考えて用意していたんだ。やっと渡せる」
(会えるかどうかもわからない中、ずっと……?)
「これも、受け取ってくれ。四年分にしたらこんなに大きくなってしまった」
差し出された花束は、白い薔薇に青いかすみ草が添えられている。
受け取ると見た目より重く、この四年樹さんがどんな気持ちで過ごしてきたのか、そのすべてが込められている気がした。
花束を受け取ると、樹さんはスーツのポケットから小箱をだす。
「澪、結婚しよう。今度こそ離さないと誓う」
まっすぐで真摯な瞳に、昨日たくさん泣いたはずなのに、また涙腺が緩んだ。
私も、今度こそ離れない。