離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
5、約束と現実のあいだ
柊が起きると展望レストランで朝食を食べ、周辺を観光してから帰宅となった。
行きのトラブルを気にして、新幹線で帰るはずだったが樹さんが車で送ってくれた。
疲れるし、往復するだけに忙しい彼の時間を使うのは忍びない。
それでも一分でも長く一緒にいたいのだと言ってくれ、私は甘えることにした。
手には今朝もらった指輪が光る。感じる重みが久しぶりすぎるせいかまだ慣れなくて、何度もその証を指でなぞった。
これから、また共に生活を始めるための準備で忙しくなる。仕事も新しく探さなくてはならないし、環境もかわるからしばらくは大変だろう。でも、それさえも楽しみで仕方がない。
木場さんの件は職場にも伝わっており、女将から彼の穴を埋めるためのシフト変更の連絡がはいっていた。木場さんに続き急に人手が減るのは申し訳ないので、早めに辞めることを伝えて引き継ぐ準備をしなくては。
家につき、支度を済ませて柊とベッドにはいる。
気持ちが高ぶっているのかなかなか眠れずにいると、樹さんから連絡が入った。
家についたので連絡をくれたのかと思ったが、移動時間を考えるとまだ少し早い。
「もしもし、樹さん?」
もう東京のマンションに着いたのかと不思議に思いながら電話にでると、返ってきたのは女性の声だった。
『式島の秘書、宮原です』
スマホの画面を見かえすと、確かに樹さんの番号だ。
(彼の電話から、どうして宮原さんが……)
「あの、こんばんは、お世話になります」
樹さんになにかあったのだろうか。
(まさか事故……)
心臓が跳ね上がった。その時、宮原さんは淡々と告げた。
『お話がありご連絡差し上げました。単刀直入に申し上げます。これ以上、社長に関わるのはおやめください』
すぐには何を言われているのかわからなかった。思考が、遅れて追いつく。
「……どういう、」
『過去のご事情については存じております。ですが、今や社長は各方面に影響力を持つ立場です。ようやくここまで築き上げてきたのに、隠し子がいたなどと世間に知られたら信用が一気に崩れ去ります』
「……っそれは……」
幸せいっぱいだったところに横殴りされたような衝撃で、胸いっぱいに広がっていた温もりが、一瞬ですっと冷えた。
やわらかい口調なのに、有無を言わせない響きだ。
わかっていたはずだった。考えたはずだ。釣り合わないのでは、私の存在が迷惑にならないか、と。
それなのに、いつの間にか自分と柊のことばかりになっていた。
『あなたがそばにいる限り、いずれ明るみに出る可能性は否定できません』
――やましいことはしていない。
柊は隠し子ではなく、私たちが愛し合った証だ。事情があって一度は離れるしかなかったが、また出会いお互いの気持ちを通じ合った。ただそれだけの事だ。
樹さんだってそう言ってくれていた。
けれど、世間はそう見てくれるだろうか。
朝のニュース番組のひと枠に出演しただけで、SNSのトレンドになるほど魅力を持った人だ。
『ご理解いただけるはずです』
反論すればいいのに、息が詰まって何も言えなかった。
『……それと、もう一点』
応えない私に、宮原さんは疎ましそうにため息交じりに言った。
『あなたと過ごすようになってから、社長がどのような無理をなさっているのかご存じでしょうか』
体の内側から溢れていた幸せがみるみる萎んでいく。