離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
樹さんに見合うようになりたい。宮原さんにも認めてもらうにはどうしたらいいんだろう。指摘されてからずっと考えていた。
私ばかり、何も変われていない気がする。
「……実は、柊の父親と復縁したいと思ってまして」
「あら、素敵な話じゃない。澪ちゃんから恋愛話聞くの初めてかもしれないわ」
女将さんは神妙だった雰囲気をパッと和らげた。
「元ご主人ってことは、もしかしてずっと好きだったの?」
「はい。一度は離婚しましたけど、彼のことを嫌いになったわけではなかったので。忘れられなくて……」
「あらあらあら」
女将さんの少し興奮気味な相槌に、恥ずかしさでじわじわと頬が熱くなった。
「彼は会わない間に凄く大きな存在になっていて、私では釣り合わないんじゃないかって不安になってたんです。だから、とりあえず今できることを頑張ろうって思ったんですけど」
「それで、何か見つかった?」
女将さんは何もかもお見通しのようで、ふふっと笑った。
「いえ、まだです。実は両親にも息子にも申し訳ない気持ちも出てきてしまって、うまくいきませんね……」
焦っても仕方がないのはわかっていた。一朝一夕で変われるわけでもない。
「無駄なことなんてなくて、考えて実行したことが立派! でも、そうね……自分では見えていないことってあると思うの。ちゃんとお相手に不安に思ってることを話してみたらきっと解決できるから、がんばって。そうしたら立場が逆転しちゃうかもしれないわ」
(立場が逆転?)
どういう意味だろう。
女将さんは解決の糸口をわかっているようだったが、それは樹さんから聞くようにと言われた。
さながらウインクでもしそうなほど軽快に背中を押され、思い詰めていた気持ちがふと軽くなる。
最近は落ち込んで電話も出来ずにいたから、思っていることをちゃんと話そうと決意した途端、無性に声を聞きたくて堪らなくなった。
(今夜、電話してみよう)
仕事と家事を終え、柊を寝かしつけてから電話をしようと思っていると、就寝前の柊はベッドに寝転び私のスマホで遊んでいた。
「柊〜ゲームはもうおしまいだよー」
「ママ〜、パパがいっぱい」
最近ではいっくん、とパパの呼び方が混ざるようになった。彼のことをパパと呼ぶのを聞くと、まだ私も少し慣れなくてくすぐったい気持ちになる。
最近夢中になっている、ペットを育てるアプリで遊んでるのかと思ったら、柊が見せてきたのはSNSアプリだった。
「え?」
【美男美女すぎて推せる】
【イケメン社長と美人秘書とかドラマすぎん?】
【密かに推してたのに結婚てマジ?】
「なに、これ……」
ニューストレンドになっているらしく、投稿画面に流れてくるのは、樹さんのことばかりだった。
誰が作ったのか、親密そうにするふたりの切抜き動画や結婚式のコラ画像もあって、フェイクだとわかっていても胸が痛む。
スクロールを進めていくと、ひとつの投稿に目が留まる。
【このふたりが高級ホテルから出てくるとこみたことある】
一瞬、呼吸を忘れた。
(――違う)
すぐに間違えそうになる心に、冷静になれと言い聞かせる。
樹さんは出張が多いから、ホテルを利用する機会などいくらでもある。宿泊じゃなくとも、仕事で視察にいくことだって。
信じているけれどいい気持ちはせず、やりきれなさが胸の中で膨らんだ。
「ママー?」
無意識に大きなため息をついていると、柊に声をかけられ動揺を押し殺す。
「――あ、ごめん。ぼーっとしちゃった。ほら、もう寝ましょ~」
取り繕うように笑うと、スマホの画面を切り柊を横にならせた。
「パパいそがしい? いつあえる?」
「いつかなぁ。早く会いたいね」
柊と一緒に布団にもぐり、お腹をぽんぽんと叩く。
柊は昼間の活動量が多いからか昔から寝つきがいいほうで、ほどなく眠りに落ちた。樹さんにそっくりな幼い顔を眺めていたら、さらに寂しい気持ちが込み上げる。
顔を見ていないせいか、宮原さんの言葉が刺さっているせいか、随分と弱気だ。柊よりも自分のほうが樹さんを求めていた。
(会いたい……)
いますぐ彼の元に駆け付けられたらいいのに。
そう思ったのと同時に、スマホのバイブが鳴り始める。電話のようだ。
サイドテーブルに置いておいたので、振動音が大きくなった。慌ててスマホを手に取ると、掛けてきた相手は樹さんだった。
(どうしたんだろう)
嫌な話じゃなければいい。SNSに踊らされるのは良くないとわかっているのに、『やっぱり宮原さんと結婚する』なんて言われることも可能性はゼロではない。
すぐに寝室を出て廊下に行くと、少し身構えながら通話ボタンを押した。
「――樹さん?」
『澪、繋がってよかった』
かすかに緊張を感じたが、ふとそれが解け安堵したような声だ。
「どうしたの?」
『遅くにすまない――家を出られないか。会いに来ているんだ』
私ばかり、何も変われていない気がする。
「……実は、柊の父親と復縁したいと思ってまして」
「あら、素敵な話じゃない。澪ちゃんから恋愛話聞くの初めてかもしれないわ」
女将さんは神妙だった雰囲気をパッと和らげた。
「元ご主人ってことは、もしかしてずっと好きだったの?」
「はい。一度は離婚しましたけど、彼のことを嫌いになったわけではなかったので。忘れられなくて……」
「あらあらあら」
女将さんの少し興奮気味な相槌に、恥ずかしさでじわじわと頬が熱くなった。
「彼は会わない間に凄く大きな存在になっていて、私では釣り合わないんじゃないかって不安になってたんです。だから、とりあえず今できることを頑張ろうって思ったんですけど」
「それで、何か見つかった?」
女将さんは何もかもお見通しのようで、ふふっと笑った。
「いえ、まだです。実は両親にも息子にも申し訳ない気持ちも出てきてしまって、うまくいきませんね……」
焦っても仕方がないのはわかっていた。一朝一夕で変われるわけでもない。
「無駄なことなんてなくて、考えて実行したことが立派! でも、そうね……自分では見えていないことってあると思うの。ちゃんとお相手に不安に思ってることを話してみたらきっと解決できるから、がんばって。そうしたら立場が逆転しちゃうかもしれないわ」
(立場が逆転?)
どういう意味だろう。
女将さんは解決の糸口をわかっているようだったが、それは樹さんから聞くようにと言われた。
さながらウインクでもしそうなほど軽快に背中を押され、思い詰めていた気持ちがふと軽くなる。
最近は落ち込んで電話も出来ずにいたから、思っていることをちゃんと話そうと決意した途端、無性に声を聞きたくて堪らなくなった。
(今夜、電話してみよう)
仕事と家事を終え、柊を寝かしつけてから電話をしようと思っていると、就寝前の柊はベッドに寝転び私のスマホで遊んでいた。
「柊〜ゲームはもうおしまいだよー」
「ママ〜、パパがいっぱい」
最近ではいっくん、とパパの呼び方が混ざるようになった。彼のことをパパと呼ぶのを聞くと、まだ私も少し慣れなくてくすぐったい気持ちになる。
最近夢中になっている、ペットを育てるアプリで遊んでるのかと思ったら、柊が見せてきたのはSNSアプリだった。
「え?」
【美男美女すぎて推せる】
【イケメン社長と美人秘書とかドラマすぎん?】
【密かに推してたのに結婚てマジ?】
「なに、これ……」
ニューストレンドになっているらしく、投稿画面に流れてくるのは、樹さんのことばかりだった。
誰が作ったのか、親密そうにするふたりの切抜き動画や結婚式のコラ画像もあって、フェイクだとわかっていても胸が痛む。
スクロールを進めていくと、ひとつの投稿に目が留まる。
【このふたりが高級ホテルから出てくるとこみたことある】
一瞬、呼吸を忘れた。
(――違う)
すぐに間違えそうになる心に、冷静になれと言い聞かせる。
樹さんは出張が多いから、ホテルを利用する機会などいくらでもある。宿泊じゃなくとも、仕事で視察にいくことだって。
信じているけれどいい気持ちはせず、やりきれなさが胸の中で膨らんだ。
「ママー?」
無意識に大きなため息をついていると、柊に声をかけられ動揺を押し殺す。
「――あ、ごめん。ぼーっとしちゃった。ほら、もう寝ましょ~」
取り繕うように笑うと、スマホの画面を切り柊を横にならせた。
「パパいそがしい? いつあえる?」
「いつかなぁ。早く会いたいね」
柊と一緒に布団にもぐり、お腹をぽんぽんと叩く。
柊は昼間の活動量が多いからか昔から寝つきがいいほうで、ほどなく眠りに落ちた。樹さんにそっくりな幼い顔を眺めていたら、さらに寂しい気持ちが込み上げる。
顔を見ていないせいか、宮原さんの言葉が刺さっているせいか、随分と弱気だ。柊よりも自分のほうが樹さんを求めていた。
(会いたい……)
いますぐ彼の元に駆け付けられたらいいのに。
そう思ったのと同時に、スマホのバイブが鳴り始める。電話のようだ。
サイドテーブルに置いておいたので、振動音が大きくなった。慌ててスマホを手に取ると、掛けてきた相手は樹さんだった。
(どうしたんだろう)
嫌な話じゃなければいい。SNSに踊らされるのは良くないとわかっているのに、『やっぱり宮原さんと結婚する』なんて言われることも可能性はゼロではない。
すぐに寝室を出て廊下に行くと、少し身構えながら通話ボタンを押した。
「――樹さん?」
『澪、繋がってよかった』
かすかに緊張を感じたが、ふとそれが解け安堵したような声だ。
「どうしたの?」
『遅くにすまない――家を出られないか。会いに来ているんだ』