離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
それを聞いた途端スマホを握りしめながら階段を駆け下り、パジャマ姿のまま玄関を飛び出した。

車の前に、彼のシルエットが見える。その姿を見た瞬間足が止まった。

「樹さん……どうしてここに」

また、無理をしたんじゃないだろうか。睡眠時間を削っているという宮原さんの言葉を思い出す。

「澪に会いたかったんだ」

これまでと変わりない笑顔を見たら、張りつめていたものが切れたように彼の胸元に額を押し当てていた。

「……駄目だよ。ちゃんと休みとれてる? 会えるのは嬉しいけど、自分の体も大事にしてほしいのに……」

「これは駄目っていう態度じゃないな」

樹さんの腕が背中に回り、体が密着する。

「心配させてすまない。明日はこちらの方面で仕事があるんだ。だから無理はしていない」

「ほんと? ご飯は食べた? 朝は早くないの?」

「ああ。最近様子がおかしいと思っていたら……体調を崩したことを気にしてくれていたのか。少し風邪気味になっただけだ。元々丈夫なのは知っているだろう? もう元気だから気に病まなくていい」

それもそうだが、連絡を取りづらくなるほど悩んでしまったのは自分への自信のなさだ。

「それならいいけど……話をしたかったの。だから会えてよかった。来てくれてありがとう」

少し体を離して見上げると、樹さんはピクリと眉を動かした。

「……話というのは、ネットで騒がれている件だな?」

樹さんも同じ情報を得ていたらしい。瞼を閉じ、眉間を揉む様な仕草を見せると苦々しいため息をついた。

言葉に詰まり返事をすぐにできなかったが、その件を良く思っていないことが顔に出てしまっていたようで、樹さんは「すまない」と謝った。

「樹さんが悪いわけじゃ……」

「いいや、リスクマネジメントが出来ていなかった俺の責任でもある。当然、宮原と行動するのは仕事以外ありえないが、周囲がどう見るかをもっと気に掛けるべきだった。あんなくだらないフェイクが澪の目に入ってしまったらと思ったら気が気じゃなくて……」

いつも冷静な樹さんらしからぬ焦燥が垣間見えて、やはりあれはすべて嘘なんだと再確認し安心することができた。

「びっくりしたけど、樹さんのこと信じてたから」

「でも、嫌な思いをさせたことには変わりない。ずっと不安そうな顔をしているじゃないか」

背の高い樹さんを見上げていた顔に、指先がそっと届く。顔に掛かっていた髪をそっと耳にかけると、ゆっくりと唇を落として触れるだけのキスをした。

「俺が愛し、生涯を共にしようと誓ったのは澪だけだ」

「――うん」

温もりから、樹さんが本当に私を思ってくれている気持ちが沁みてくる。腕の中にいるだけではもの足りなくなって、背中に手をまわしぎゅっと抱きついた。

「澪の気持ちも教えてくれ」

「え……」

先ほどより余裕を見せてきた樹さんは、口の端で笑う。

「今回の件で、やはり復縁はなかったことにと言われたらどうしようかと気が気じゃなかった。だから、澪の言葉で安心したい」

「――う……」

ちょっと前まで冷え切っていた体がかぁっと燃えるように熱くなった。

ストレートに気持ちを伝えるのが苦手な私に対して、樹さんは臆せず愛を伝えてくる人だった。恥ずかしいが、それに応えると喜んでくれることを知っていた。

だからずっと、樹さんの安堵と幸せを噛みしめる笑顔が見たくて、自分の発する熱で眩暈を起こしそうになりながらもいつも必死で伝えてきたんだ。

「これまでもこれからも、愛しているのは樹さんだけ……」

語尾が小さくなってしまった。
それでも樹さんは嬉しそうに微笑んで、また強く抱きしめてくれた。


投稿に関しては樹さんの知り合いのエンジニアに相談して削除できるように動いており、それ以外にも来週またPRの為のテレビインタビューのスケジュールがあるらしく、そこでしっかり否定をしてくれるそうだ。

立ちっぱなしだったので、車の中に場所を移動すると、女将さんに教わったとおり正直に気持ちを打ち明けた。

「実は、私ここのところ自信をなくしていたの」

樹さんは私の不安を感じ取っていたようで、大丈夫だというように手を握った。

「別れてからの時間、樹さんは自分で道を切り開いて一線で活躍する存在になっていて……樹さんのこれからの歩みに寄り添うのは私でいいのかなって考えるようになってしまって……」

「どうして急に? プロポーズを受けてくれた時は、そんな感じではなかっただろ」

「釣り合うのかなっていう迷いは少なからずあったの。それで、ちょっと考える機会があって……」

「――宮原に何か言われた?」

どうしてわかったのだろう。顔を上げると樹さんは「やっぱりな」と納得したようだった。
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