離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
お昼寝が終わった時間帯からとなっているので、14時半には園についていないといけない。

子どもの体調不良や保育園の行事でシフト通りに入れないことが少なくないので、率先してその穴埋めをしてくれる木場さんには感謝している。今日も私が早上がりをさせてもらうことで、交代要員がくるまでの二時間、木場さんはひとりでフロント業務になってしまうのだが、そのくらい大丈夫だと快く送り出してくれた。

「はい。ぜひ。いつもご迷惑をおかけしてすみません」

「かわいい柊君のためですよ。これしきのことお任せください」

「ありがとうございます。心強いです。木場さんに頼り切りで、何かありましたらお返ししたいのでおっしゃってくださいね」

木場さんが長期休暇を取りたい時など、交代できる時があったらぜひ協力させてもらいたい。

「あ、そうだ。じゃあ今度、そのお礼いただいてもいいですか?」

木場さんがポンと手を叩く。

「もちろんです。なんでしょう」

「今度の休日、柊君と公園でサッカーさせてください」

「木場さんってば。それは柊へのご褒美であって、木場さんへのお返しじゃなくなっちゃいますよ」

「ははは。柊君と遊べるのが何よりも楽しみなんですよ」

予定していた時間まで勤務すると、木場さんと週末に会う約束をして、先に上がらせてもらった。


化粧を整える暇もなく、慌てて保育園に駆けつける。集合時間ぎりぎりだったので、もう他の保護者たちはほぼ集まっていた。
集合場所の多目的ホールに向かうと、柊が走ってきて足に抱きつく。

「ママ―! おそいぞ!」

「ごめーん。お待たせ~」

抱きしめて頭をよしよしとすると柊は嬉しそうにした。
そういえば、どこの会社の取材だっけ。

プリントを渡されていたが、流し見をしてよく読んでいなかった。畳んでバッグに仕舞いっぱなしだった案内を取り出し開く。

【視察会社:リコルヴィアホテルグループ。取材:東京メディア放送局、番組名:仕事リアルストーリー、内容:取締役社長密着取材】

(……ん? リコルヴィア……?)

「密着取材⁉」

急に心臓が跳ね上がり、バクンバクンとうるさくなる。
なんで気が付かなかったんだろう。これって、樹さんが経営する会社だ。

「ママーどうしたの?」

不思議そうにする柊に、挙動不審になってしまったことを笑って誤魔化す。

「なんでもないよ」

(取締役の取材ってことは、樹さんがくるってこと? いやいや、そんな偶然……でも、もしかしたら……)

内心パニックになっていると、園長先生がホールに入ってきて挨拶をした。

「今日は保護者参観会にお集まりいただきありがとうございます。お子さんと楽しんでくださいね。テレビ取材の内容は、東京メディア情報局の番組の一部に使われます。放送の詳細が決まりましたら、またお知らせしますので楽しみにお待ちください」

園長の背後には大きなカメラに背丈より長い棒がついたマイクを持ったカメラマンさんたちに、台本を持ったディレクターらしき男性と女性。それにスーツ姿の樹さんが立っていた。

私は咄嗟に俯き顔を隠す。
別れて何年も経つのにいつまでも好きなままで、あんなにもう一度会えたらと焦がれていたのに、いざこんな場面になるとどうしたらいいのかわからない。

周りの男性より頭一つ飛び出ている長身に、仕立てのよさそうな三揃いのスーツ。立っているだけでオーラが違い、樹さんだけ輝いているように見えた。

「うわあ! すごいよみて。おっきいカメラだ!」

柊が興奮して、手を繋いだままぴょんぴょんと飛び跳ねた。
樹さんから見えないように、それとなく少し後ろに下がり人の影に隠れる。

園長が促し、樹さんが一歩前にでて挨拶をする。

「初めまして。リコルヴィアホテルグループ責任者の式島と申します。家族みんなで楽しめ、思い出に残る宿泊をコンセプトとしておりまして、今日は、木の温もりが感じられる保育園の見学と、お子さんたちが設備をどう楽しんでいるかについて学ばせていただきに参りました」

この保育園は、ちょうど柊が入園する時に開園したばかりの新しい保育園だ。全て木造で建てられており、平屋で床は無垢材。高天井の作りになっていて、明るく開放的な雰囲気だ。

机や椅子も地元の大工さんの手作りで、おもちゃも廃材を活用した積み木やおままごとセットに木琴などがある。
この保育園のコンセプトが自然と健康で、普段から裸足で過ごし、外遊びでは子ども達の背丈より高い竹馬に乗り、自分で編んだ縄跳びで遊んだりとエネルギッシュだ。

設備にはボルタリング、トランポリンもあって、活発な性格で体力がありあまっている柊にはぴったりの保育園だ。
参観会が始まると、親子体操とダンスで体をほぐしてから、自由時間となった。それぞれ好きな遊具で遊ぶ。

柊に手を引かれて向かったのはボルタリングだった。
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