離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
大人がサポートできる高さの子どもサイズとはいえ、難しそうだ。
「ママ! これみて! オレね、このあいだいちばんうえまでいけたんだよ!」
「一番上まで? 凄い」
「みててよ!」
柊が得意げな顔をして登り始めた。
足元はやわらかいマットになっているが、いつでも支えられるようにお尻あたりに手を出しておく。
樹さんの場所を確認すると、トランポリンの前で女性と親密そうに話していた。園児は八十人近くいる。目立たないようにしていれば、気づかれずにやり過ごせるかも。
(あ、あの人、テレビに一緒に映ってた秘書だ)
胸がズクンと傷んだ。
咄嗟に顔を逸らす。
なんだか頭の中が混乱している。会うのが気まずくてコソコソしているのに、樹さんのことはもう過去なんだってわかっているのに、自分以外の女の人が隣に立つのがすごく嫌だ。
「これね、ここにつかまって、このあおいいしにあしのっけるとはやくのぼれるんだよ」
あっという間に一番上まで登った柊が、意気揚々と教えてくれた。
「柊は凄いね。高くて怖くない?」
見守るこちらとしては、バランスを崩さないかソワソワとする。
「ぜーんぜん! こんなこともできるんだよ!」
柊が、その場でバンザイをしてジャンプをした。
「わ、わぁ、柊! そこでジャンプしたら危ないよ」
その時、柊が足を滑らせ体がぐらりと傾いた。
「柊!!」
遊具の外側に倒れ、落ちる柊を抱き止めようと、慌てて手を伸ばす。
遠くから、目撃したであろう人の悲鳴が聞こえた。
(間に合わない……‼︎)
そう思った瞬間、私の後ろから腕が伸び、黒い影が前に躍り出た。黒いスーツのジャケットを翻し、その人は柊が落ちる直前で抱きとめる。
それから、柊を受け止めようと体制を崩した私も同時に支えてくれた。
「間に合った……!」
助けてくれたスーツの男性――樹さんは柊を抱きしめたままほっと息をつく。
(樹さんだ……)
顔を上げた樹さんと目が合うと彼ははっと息を呑み、瞳の奥を揺らした。
「澪……」
小さく呟き、それから呆然と柊を見る。
どうしていいかわからず逃げていたのに、ここにいることがバレてしまい、私は視線を彷徨わせた。
「うわあん!」
驚いた柊が腕の中で泣き出した。
「あっ……! 助けていただいてありがとうございました。柊、おいで」
柊が飛びつくように胸に飛び込んでくると、よしよしと背中を撫で宥めた。
「びっくりしたね。もう大丈夫」
柊は平均より体も大きくわんぱくで、普段はあまり泣かない逞しい性格だ。しかし今回ばかりは怖かったようで、珍しく大粒の涙をこぼす。
「痛いところはないか?」
樹さんが柊に微笑むと、柊はぐずぐずと鼻をすすりながらも頷いた。
「柊、助けてもらったから、ちゃんとご挨拶しようか」
体勢を整え樹さんと向き合うと、柊と頭をさげた。
「ありがとーございましたっ」
大きな声でしっかりとお礼を言えて、親として誇らしかった。
「すみません。……お怪我はありませんでしたか」
以前のように気軽に話していいのか分からず、しどろもどろの喋り方になった。
「ええ、特には。あなたも大丈夫でしたか」
「はい、支えていただいたので」
どうにも気まずくて顔を直視できないが、反対に樹さんからは探るような視線をひしひしと感じた。
柊を落ち着かせ遊具の上ではしゃぎすぎないことを約束し、その場を離れようとすると、樹さんはすれ違いざまに私にしか聞こえないトーンで囁いた。
「澪、あとで会おう。話がしたい」
落ち着いているが、反論を許さない程度の感情的な物言いに、過去、彼に愛されていた頃の自分を思い出した。
保護者参観会が終わり、帰り際にリコルヴィアホテルから園児全員に配られた資料には、ホテルのパンフレットと宿泊割引サービスチケットなどがあった。
家に帰ってから広げると、その中に、樹さんの名刺を見つけて心臓が跳ねる。
互いに連絡先を知らないのに、どうやって連絡を取り会うのかと思っていたら、名刺の裏には【連絡してほしい】というメモと携帯番号が書かれていた。
「あらー、楽しそうなホテルね!」
仕事を終え、ちょうど帰宅したお母さんがパンフレットを覗き込んだ。
咄嗟に名刺をポケットに隠す。
「今日の参観会に来てた会社の資料だよ」
パンフレットの表紙はホテルのバルコニーから夕陽を眺める家族四人の後ろ姿だ。部屋や設備ではなく、お客様第一で宿泊客をキービジュアルにしているところが樹さんらしい考え方だ。
たくさんはしゃぎ遊びすぎたのか、柊が眠そうにあくびをしている。早めに夕飯とお風呂を済ませて寝かせるのが吉だ。うっかり昼寝をしてしまうと、夜眠るのが遅くなって大変だから。
夕食を作り柊のお世話をしている間も、樹さんのことが気になって仕方がなかった。
本当に連絡をしていいのかな?
「ママ! これみて! オレね、このあいだいちばんうえまでいけたんだよ!」
「一番上まで? 凄い」
「みててよ!」
柊が得意げな顔をして登り始めた。
足元はやわらかいマットになっているが、いつでも支えられるようにお尻あたりに手を出しておく。
樹さんの場所を確認すると、トランポリンの前で女性と親密そうに話していた。園児は八十人近くいる。目立たないようにしていれば、気づかれずにやり過ごせるかも。
(あ、あの人、テレビに一緒に映ってた秘書だ)
胸がズクンと傷んだ。
咄嗟に顔を逸らす。
なんだか頭の中が混乱している。会うのが気まずくてコソコソしているのに、樹さんのことはもう過去なんだってわかっているのに、自分以外の女の人が隣に立つのがすごく嫌だ。
「これね、ここにつかまって、このあおいいしにあしのっけるとはやくのぼれるんだよ」
あっという間に一番上まで登った柊が、意気揚々と教えてくれた。
「柊は凄いね。高くて怖くない?」
見守るこちらとしては、バランスを崩さないかソワソワとする。
「ぜーんぜん! こんなこともできるんだよ!」
柊が、その場でバンザイをしてジャンプをした。
「わ、わぁ、柊! そこでジャンプしたら危ないよ」
その時、柊が足を滑らせ体がぐらりと傾いた。
「柊!!」
遊具の外側に倒れ、落ちる柊を抱き止めようと、慌てて手を伸ばす。
遠くから、目撃したであろう人の悲鳴が聞こえた。
(間に合わない……‼︎)
そう思った瞬間、私の後ろから腕が伸び、黒い影が前に躍り出た。黒いスーツのジャケットを翻し、その人は柊が落ちる直前で抱きとめる。
それから、柊を受け止めようと体制を崩した私も同時に支えてくれた。
「間に合った……!」
助けてくれたスーツの男性――樹さんは柊を抱きしめたままほっと息をつく。
(樹さんだ……)
顔を上げた樹さんと目が合うと彼ははっと息を呑み、瞳の奥を揺らした。
「澪……」
小さく呟き、それから呆然と柊を見る。
どうしていいかわからず逃げていたのに、ここにいることがバレてしまい、私は視線を彷徨わせた。
「うわあん!」
驚いた柊が腕の中で泣き出した。
「あっ……! 助けていただいてありがとうございました。柊、おいで」
柊が飛びつくように胸に飛び込んでくると、よしよしと背中を撫で宥めた。
「びっくりしたね。もう大丈夫」
柊は平均より体も大きくわんぱくで、普段はあまり泣かない逞しい性格だ。しかし今回ばかりは怖かったようで、珍しく大粒の涙をこぼす。
「痛いところはないか?」
樹さんが柊に微笑むと、柊はぐずぐずと鼻をすすりながらも頷いた。
「柊、助けてもらったから、ちゃんとご挨拶しようか」
体勢を整え樹さんと向き合うと、柊と頭をさげた。
「ありがとーございましたっ」
大きな声でしっかりとお礼を言えて、親として誇らしかった。
「すみません。……お怪我はありませんでしたか」
以前のように気軽に話していいのか分からず、しどろもどろの喋り方になった。
「ええ、特には。あなたも大丈夫でしたか」
「はい、支えていただいたので」
どうにも気まずくて顔を直視できないが、反対に樹さんからは探るような視線をひしひしと感じた。
柊を落ち着かせ遊具の上ではしゃぎすぎないことを約束し、その場を離れようとすると、樹さんはすれ違いざまに私にしか聞こえないトーンで囁いた。
「澪、あとで会おう。話がしたい」
落ち着いているが、反論を許さない程度の感情的な物言いに、過去、彼に愛されていた頃の自分を思い出した。
保護者参観会が終わり、帰り際にリコルヴィアホテルから園児全員に配られた資料には、ホテルのパンフレットと宿泊割引サービスチケットなどがあった。
家に帰ってから広げると、その中に、樹さんの名刺を見つけて心臓が跳ねる。
互いに連絡先を知らないのに、どうやって連絡を取り会うのかと思っていたら、名刺の裏には【連絡してほしい】というメモと携帯番号が書かれていた。
「あらー、楽しそうなホテルね!」
仕事を終え、ちょうど帰宅したお母さんがパンフレットを覗き込んだ。
咄嗟に名刺をポケットに隠す。
「今日の参観会に来てた会社の資料だよ」
パンフレットの表紙はホテルのバルコニーから夕陽を眺める家族四人の後ろ姿だ。部屋や設備ではなく、お客様第一で宿泊客をキービジュアルにしているところが樹さんらしい考え方だ。
たくさんはしゃぎ遊びすぎたのか、柊が眠そうにあくびをしている。早めに夕飯とお風呂を済ませて寝かせるのが吉だ。うっかり昼寝をしてしまうと、夜眠るのが遅くなって大変だから。
夕食を作り柊のお世話をしている間も、樹さんのことが気になって仕方がなかった。
本当に連絡をしていいのかな?