離縁したはずですが、元夫が再会後に溺愛してきます
私だって離れてからずっと、変わらず愛していた。樹さんの気持ちが冷めたと知ってもなお忘れられずに、子どもにあなたの面影を探して小さな幸せを感じていたくらいに。
自分でも呆れるほど、ずっとずっと好きだった。
「……澪!」
想いが溢れたかのように、強くかき抱かれる。
「すまない……澪には辛い思いをさせた。あの時、なぜ離婚することになったのか、理由を説明させてほしい」
樹さんからは、後悔と悲しみが伝わって来た。
「すべては言い訳にしかならないだろう。それでも、ちゃんと説明をして澪とやり直したい。子どもと君との未来を……これからを共に過ごしたいんだ」
「樹さん……」
胸が震えた。
驚きと溢れる喜びと。胸の奥に深く突き刺さったままの痛みも忘れられず、感情がわけわからなくなった。
嬉しい。嬉しくて堪らない。
まだ樹さんが目の前にいることが信じられないのに、やり直そうと言ってもらえるなんて夢のようだった。
スーツの上からでもわかる逞しい体にすっぽりと包まれ、久しぶりの彼の匂いに満たされた。懐かしい感触にうっとりと瞼を閉じる。
香水は以前と同じものを使っているようで、私が好きだった、清涼感のある爽やかなハーブの香りがした。
(大好き。私もやり直したい)
すぐにそう返事をすればいいのに、それでもなぜか言い淀んだ。自分の気持ちだけじゃなくて、ちゃんと考えなくちゃ。
やり直すって、どこで、どうやって?
仕事は? 両親にはなんて説明しよう。さんざん迷惑をかけて甘えて、やっぱりよりを戻しますだなんて簡単に言っていいの? それに、柊はどうするの。あの子が一番幸せになる方法を選びたい。せっかくお友達がたくさんできた保育園は? そもそも、樹さんを父親だと思ってくれるのかな。
ううん。それよりも樹さんは、今は会社を背負う立場の人で、これからもっと業績拡大させていかなくてはいけないのに、私が相手でいいのだろうか。テレビの中に見た、華やかな世界に立つ樹さんと私では釣り合わないように思えた。
(――本当に、この手をとっていいのかな)
私の不安を読み取ったのか、樹さんは切なそうに微笑した。
「すぐには決められないのはわかっている。突然で驚いただろう。改めて言うが、これまで、辛い思いをさせてすまなかった。あの時の決断は俺にとっても耐えがたいものだったが、澪を守るためにはあの選択が最適だと思っていた。……結果、それは間違っていたのかもしれない……。こんなことになったのは全て俺が不甲斐なかったからだ」
「そんなこと……」
何も知らず気が付かなかった自分が恥ずかしい。打ち明けて貰えずに支えることができなかったのは、私が守られてばかりで、頼りない妻だったからでもある。
「チャンスをくれないか。俺は澪を愛する気持ちはずっと変わらない」
いつのまにか、車は海岸の駐車場に来ていた。
運転手が気を利かせ車から降りると、樹さんは「聞いてくれるか」とあの時、何があったのかを話してくれた。
***
俺はずっと母とふたり暮らしで、たまに姿を見せる男が、自分の父親だと知ったのは中学生くらいの時だ。その関係が、愛人と呼ぶものだと知ったのは高校生の時。
家庭を持ちながら母親を弄ぶひどい男だと思うのに、そいつの資金援助がなければ学校にも通えない環境にいる自分が悔しくてたまらなかった。大学へ行かせてもらう条件が卒業後は父親の会社に入社することで、大学には進学したかったし、父親が会社ではどんな人間なのか知りたいと思う気持ちもあったのでその条件を呑んだ。
お前は何ができるんだと、常に値踏みするような笑みを浮かべる父親に、仕事ができることを見せ、見返してやりたかった。
入社後はホテルの現場を一年経験し、その後、営業部へ配属となった。団体客の誘致や法人営業がメインではあったが、エリアの統括と指導も担当になり忙しい毎日を送るようになった。
実の兄、雄司からの嫌がらせが始まったのはその辺りだ。営業成績トップを取り続けたのが気に入らなかったようで、雄司は仕事の邪魔や嫌がらせをするようになった。当時、雄司は営業課の課長で直属の上司だったが、アポイントの時間を勝手に変更したり、俺にだけ共有事項を通達しないなんてことはざらで、関わりのなかった仕事のクレーム処理を押し付けられることも多かった。
雄司が昇進し部長になってからは成績の操作が行われるようになり、俺がとった契約が、いつの間にか雄司の手柄になっていることが頻繁に起こり始める。
理不尽な思いをしてまで、この会社に縛りつく理由などないんじゃないか。会社を辞めれば、これまでの学費を返せと言われているが、もう返していくだけの力をつけた。
澪と初めて会ったのは、不遇に耐え兼ね見切りを付けようか悩んでいたさなか。フロント対応のトラブルに巻き込まれた彼女を手助けした時だ。
自分でも呆れるほど、ずっとずっと好きだった。
「……澪!」
想いが溢れたかのように、強くかき抱かれる。
「すまない……澪には辛い思いをさせた。あの時、なぜ離婚することになったのか、理由を説明させてほしい」
樹さんからは、後悔と悲しみが伝わって来た。
「すべては言い訳にしかならないだろう。それでも、ちゃんと説明をして澪とやり直したい。子どもと君との未来を……これからを共に過ごしたいんだ」
「樹さん……」
胸が震えた。
驚きと溢れる喜びと。胸の奥に深く突き刺さったままの痛みも忘れられず、感情がわけわからなくなった。
嬉しい。嬉しくて堪らない。
まだ樹さんが目の前にいることが信じられないのに、やり直そうと言ってもらえるなんて夢のようだった。
スーツの上からでもわかる逞しい体にすっぽりと包まれ、久しぶりの彼の匂いに満たされた。懐かしい感触にうっとりと瞼を閉じる。
香水は以前と同じものを使っているようで、私が好きだった、清涼感のある爽やかなハーブの香りがした。
(大好き。私もやり直したい)
すぐにそう返事をすればいいのに、それでもなぜか言い淀んだ。自分の気持ちだけじゃなくて、ちゃんと考えなくちゃ。
やり直すって、どこで、どうやって?
仕事は? 両親にはなんて説明しよう。さんざん迷惑をかけて甘えて、やっぱりよりを戻しますだなんて簡単に言っていいの? それに、柊はどうするの。あの子が一番幸せになる方法を選びたい。せっかくお友達がたくさんできた保育園は? そもそも、樹さんを父親だと思ってくれるのかな。
ううん。それよりも樹さんは、今は会社を背負う立場の人で、これからもっと業績拡大させていかなくてはいけないのに、私が相手でいいのだろうか。テレビの中に見た、華やかな世界に立つ樹さんと私では釣り合わないように思えた。
(――本当に、この手をとっていいのかな)
私の不安を読み取ったのか、樹さんは切なそうに微笑した。
「すぐには決められないのはわかっている。突然で驚いただろう。改めて言うが、これまで、辛い思いをさせてすまなかった。あの時の決断は俺にとっても耐えがたいものだったが、澪を守るためにはあの選択が最適だと思っていた。……結果、それは間違っていたのかもしれない……。こんなことになったのは全て俺が不甲斐なかったからだ」
「そんなこと……」
何も知らず気が付かなかった自分が恥ずかしい。打ち明けて貰えずに支えることができなかったのは、私が守られてばかりで、頼りない妻だったからでもある。
「チャンスをくれないか。俺は澪を愛する気持ちはずっと変わらない」
いつのまにか、車は海岸の駐車場に来ていた。
運転手が気を利かせ車から降りると、樹さんは「聞いてくれるか」とあの時、何があったのかを話してくれた。
***
俺はずっと母とふたり暮らしで、たまに姿を見せる男が、自分の父親だと知ったのは中学生くらいの時だ。その関係が、愛人と呼ぶものだと知ったのは高校生の時。
家庭を持ちながら母親を弄ぶひどい男だと思うのに、そいつの資金援助がなければ学校にも通えない環境にいる自分が悔しくてたまらなかった。大学へ行かせてもらう条件が卒業後は父親の会社に入社することで、大学には進学したかったし、父親が会社ではどんな人間なのか知りたいと思う気持ちもあったのでその条件を呑んだ。
お前は何ができるんだと、常に値踏みするような笑みを浮かべる父親に、仕事ができることを見せ、見返してやりたかった。
入社後はホテルの現場を一年経験し、その後、営業部へ配属となった。団体客の誘致や法人営業がメインではあったが、エリアの統括と指導も担当になり忙しい毎日を送るようになった。
実の兄、雄司からの嫌がらせが始まったのはその辺りだ。営業成績トップを取り続けたのが気に入らなかったようで、雄司は仕事の邪魔や嫌がらせをするようになった。当時、雄司は営業課の課長で直属の上司だったが、アポイントの時間を勝手に変更したり、俺にだけ共有事項を通達しないなんてことはざらで、関わりのなかった仕事のクレーム処理を押し付けられることも多かった。
雄司が昇進し部長になってからは成績の操作が行われるようになり、俺がとった契約が、いつの間にか雄司の手柄になっていることが頻繁に起こり始める。
理不尽な思いをしてまで、この会社に縛りつく理由などないんじゃないか。会社を辞めれば、これまでの学費を返せと言われているが、もう返していくだけの力をつけた。
澪と初めて会ったのは、不遇に耐え兼ね見切りを付けようか悩んでいたさなか。フロント対応のトラブルに巻き込まれた彼女を手助けした時だ。