財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
校門の前で運転手の佐々木と押し問答を続けながらも、私はどうしても諦めることができなかった。
だって、たかがファミレスなのだ。
危険な場所へ行くわけでもない。
夜遅くまで遊び歩くわけでもない。
ただ友達と放課後にご飯を食べるだけ。
そんなことまで許されないなんて、あまりにも理不尽ではないか。
もちろん、これまでだって似たような経験は何度もあった。
休日に友達と映画へ行こうとすれば護衛が付いたし、お祭りへ行こうとすれば事前に行動予定表を提出させられたし、校外学習ですら紫苑兄様は学校側へ何度も連絡を入れていた。
だから今さら驚きはしない。
しないのだけれど。
今日はどうしても行きたかった。
昼休みに陽菜が目を輝かせながら話してくれたファミレスのことを思い出す。
『新作のパフェがめっちゃ美味しいんだよ!』
『あとドリンクバーもあるし!』
『六花、絶対気に入ると思う!』
あんなに楽しそうに誘ってくれたのだ。
それなのに、
「ごめんなさい。やっぱり行けなくなったの」
なんて言いたくなかった。
私は小さく息を吐いたあと、鞄の中からスマートフォンを取り出した。
「……分かったわ」
佐々木が少し安心したような顔をする。
だが私は首を横に振った。
「じゃあ玲央兄様の許可を取るわ」
「お嬢様?」
「それならあなたも何も言えないでしょう?」
佐々木の顔が僅かに引き攣る。
私は構わず連絡先を開いた。
本当は紫苑兄様へ電話をかけたかった。
こういう時、最終的には長男で跡取りである紫苑兄様の判断が優先されることが多いからだ。
けれど今朝、
『今日は重要な商談があるから昼間は連絡できない』
と聞かされていた。
ならば残る選択肢は一人しかいない。
私は少しだけ嫌な予感を覚えながらも通話ボタンを押した。
数回のコール音のあと、
『あ?』
と、不機嫌そうな声が聞こえてくる。
挨拶も何もない。
相変わらずだった。
私は思わず眉をひそめる。
「玲央兄様、今日の放課後、学校のお友達とファミレスに行っても良いかしら」
数秒の沈黙。
嫌な予感が強くなる。
「運転手の佐々木が屁理屈をこねてどうしても駄目だって言うの。だからお兄様の許可が必要なの!」
すると次の瞬間、
『ファミレス!?』
玲央兄様の声が一段高くなった。
『バカかお前は』
私は反射的に頬を膨らませる。
やっぱり始まった。
『で、その友達って誰だ?』
「バカじゃありません!」
私は即座に言い返した。
「今日は陽菜と行くのです」
『陽菜?』
玲央兄様が鼻で笑う気配がした。
『知らねぇ名前だな』
「同じクラスのお友達です」
『どうせ平民なんだろ?』
私は一瞬言葉を失った。
どうせ平民。
ついさっき佐々木も似たようなことを言っていた。
けれど玲央兄様は何の悪気もなく、本当に当然のことのように言っている。
『却下だ』
あまりにもあっさりした声だった。
『大人しく佐々木と帰って来い』
「ちょっと待っ――」
ブツッ。
無情にも通話は切れた。
私はしばらくスマートフォンを耳に当てたまま固まっていた。
画面には無機質な通話終了の表示。
掛け直そうかとも思った。
でも無駄だということは分かっている。
玲央兄様は一度決めたら聞かない。
というより、そもそも最後まで話を聞いてすらいなかった。
私はゆっくりとスマートフォンを下ろした。
そして頬を膨らませる。
「むぅ……」
思わず不満が漏れる。
本当に腹が立つ。
自分から電話をかけたのだって珍しいのに。
少しくらい話を聞いてくれても良いではないか。
だが、怒りと同時に別の感情も胸の奥に広がっていた。
どうしてだろう。
佐々木も。
玲央兄様も。
まるで私が何も分からない子供みたいに扱う。
ファミレスへ行くことの何がそんなに問題なのか。
陽菜とご飯を食べることの何がいけないのか。
誰も説明してくれない。
ただ駄目だと言うだけだ。
私は校門の外を行き交う生徒たちを眺めた。
友達同士で笑いながら駅へ向かう子たち。
寄り道の約束をしている子たち。
そんな当たり前の光景が、今の私には少しだけ遠い世界のように見えた。
だって、たかがファミレスなのだ。
危険な場所へ行くわけでもない。
夜遅くまで遊び歩くわけでもない。
ただ友達と放課後にご飯を食べるだけ。
そんなことまで許されないなんて、あまりにも理不尽ではないか。
もちろん、これまでだって似たような経験は何度もあった。
休日に友達と映画へ行こうとすれば護衛が付いたし、お祭りへ行こうとすれば事前に行動予定表を提出させられたし、校外学習ですら紫苑兄様は学校側へ何度も連絡を入れていた。
だから今さら驚きはしない。
しないのだけれど。
今日はどうしても行きたかった。
昼休みに陽菜が目を輝かせながら話してくれたファミレスのことを思い出す。
『新作のパフェがめっちゃ美味しいんだよ!』
『あとドリンクバーもあるし!』
『六花、絶対気に入ると思う!』
あんなに楽しそうに誘ってくれたのだ。
それなのに、
「ごめんなさい。やっぱり行けなくなったの」
なんて言いたくなかった。
私は小さく息を吐いたあと、鞄の中からスマートフォンを取り出した。
「……分かったわ」
佐々木が少し安心したような顔をする。
だが私は首を横に振った。
「じゃあ玲央兄様の許可を取るわ」
「お嬢様?」
「それならあなたも何も言えないでしょう?」
佐々木の顔が僅かに引き攣る。
私は構わず連絡先を開いた。
本当は紫苑兄様へ電話をかけたかった。
こういう時、最終的には長男で跡取りである紫苑兄様の判断が優先されることが多いからだ。
けれど今朝、
『今日は重要な商談があるから昼間は連絡できない』
と聞かされていた。
ならば残る選択肢は一人しかいない。
私は少しだけ嫌な予感を覚えながらも通話ボタンを押した。
数回のコール音のあと、
『あ?』
と、不機嫌そうな声が聞こえてくる。
挨拶も何もない。
相変わらずだった。
私は思わず眉をひそめる。
「玲央兄様、今日の放課後、学校のお友達とファミレスに行っても良いかしら」
数秒の沈黙。
嫌な予感が強くなる。
「運転手の佐々木が屁理屈をこねてどうしても駄目だって言うの。だからお兄様の許可が必要なの!」
すると次の瞬間、
『ファミレス!?』
玲央兄様の声が一段高くなった。
『バカかお前は』
私は反射的に頬を膨らませる。
やっぱり始まった。
『で、その友達って誰だ?』
「バカじゃありません!」
私は即座に言い返した。
「今日は陽菜と行くのです」
『陽菜?』
玲央兄様が鼻で笑う気配がした。
『知らねぇ名前だな』
「同じクラスのお友達です」
『どうせ平民なんだろ?』
私は一瞬言葉を失った。
どうせ平民。
ついさっき佐々木も似たようなことを言っていた。
けれど玲央兄様は何の悪気もなく、本当に当然のことのように言っている。
『却下だ』
あまりにもあっさりした声だった。
『大人しく佐々木と帰って来い』
「ちょっと待っ――」
ブツッ。
無情にも通話は切れた。
私はしばらくスマートフォンを耳に当てたまま固まっていた。
画面には無機質な通話終了の表示。
掛け直そうかとも思った。
でも無駄だということは分かっている。
玲央兄様は一度決めたら聞かない。
というより、そもそも最後まで話を聞いてすらいなかった。
私はゆっくりとスマートフォンを下ろした。
そして頬を膨らませる。
「むぅ……」
思わず不満が漏れる。
本当に腹が立つ。
自分から電話をかけたのだって珍しいのに。
少しくらい話を聞いてくれても良いではないか。
だが、怒りと同時に別の感情も胸の奥に広がっていた。
どうしてだろう。
佐々木も。
玲央兄様も。
まるで私が何も分からない子供みたいに扱う。
ファミレスへ行くことの何がそんなに問題なのか。
陽菜とご飯を食べることの何がいけないのか。
誰も説明してくれない。
ただ駄目だと言うだけだ。
私は校門の外を行き交う生徒たちを眺めた。
友達同士で笑いながら駅へ向かう子たち。
寄り道の約束をしている子たち。
そんな当たり前の光景が、今の私には少しだけ遠い世界のように見えた。