【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
私は完全に迷子になっていた。

ほんの少し前まではボディーガードさんの背中が見えていたはずなのに、人の波に押されるようにして歩いているうちに、いつの間にか姿を見失ってしまったのだ。

「ど、どうしよう……。」

私は立ち止まり、不安そうに周囲を見回した。

右を見ても知らない人。

左を見ても知らない人。

前も後ろも知らない人。

当然のことなのに、なぜだかとても心細い。

それもそのはずだった。

私は生まれてから今まで、ほとんど一人で外を歩いたことがない。

学校へ行く時は運転手の佐々木がいる。

買い物へ行く時はボディーガードがいるし、だいたいお兄様たちと一緒に行く。

旅行へ行く時は執事や使用人がいる。

だから私は、今まで一人になった経験がほとんどなかった。

胸の奥がじわじわと不安で満たされていく。

私は慌てて携帯を取り出した。

「そうだ。」

連絡をすればいい。

そう思った。

だが、携帯を開いて数秒後。

私は固まった。

「あれ……?」

連絡先一覧を見つめる。

[紫苑兄様]

[玲央兄様]

[佐々木]

[優斗]

以上。

「ボディーガードさんの番号……知らない……。」

私は呆然と呟いた。

冷静に考えれば当たり前だった。

今まで直接連絡を取る必要などなかったからだ。

さらに。

「翼くんたちの連絡先も知らない……。」

私は思わず額を押さえた。

そういえば交換したことがない。

仲良くなったと思っていたのに、連絡先は知らない。

なんだか少しだけ悲しくなった。

だが、しばらくして私は小さく息を吐く。

そして、ふと考えた。

今、私は一人だ。

誰にも見張られていない。

誰にも管理されていない。

人生でこんな経験があと何回できるだろう。

もしかしたら、もう二度とないかもしれない。

「……。」

私は携帯を閉じた。

そして。

少しだけ笑った。

「せっかくだもの。」

どうせなら楽しもう。

ボディーガードに見つかるまで。

少しだけ、自由になってみよう。

そう思った。


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