【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて


私は完全に固まっていた。

頭の中が真っ白だった。

さっきまで私はただ怖かった。

知らない人たちが殴り合いをしている。

それだけで十分に恐ろしかった。

けれど今は違う。

恐怖よりも衝撃の方が大きかった。

「総長。」

その言葉。

そしてみんなが見ている先。

私は恐る恐る視線を向けた。

そして。

見つけた。

人混みの中心。

何人もの男たちに囲まれながら立っている人物。

上着の袖は破れていて、拳には血が付いている。

それでも、見間違えるはずがなかった。

翼くんだった。

道明寺翼くんだった。

私が毎日一緒に過ごしていた、ぶっきらぼうで、少し意地悪で、だけど優しい翼くんだった。

その翼くんが、まるで別人のような目をして立っている。

「そ……うちょう……?」

私は小さく呟いた。

意味が分からない。

理解が追いつかない。

翼くんが総長?

黒龍の?

あの有名な暴走族の?

そんなこと考えたこともなかった。

空いた口が塞がらないとはこのことだろうか。

そして、翼くんと目が合う。

その瞬間、翼くんの表情がわずかに歪んだ。

まるで、一番知られたくなかった秘密を見られてしまった人みたいに。
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