財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
ただ。



小学校へ上がる頃にはもう特別だった。



屋敷の庭で転んで泣いていた六花。



バイオリンの練習が嫌だと駄々をこねていた六花。



紫苑様や玲央様に振り回されて怒っていた六花。



そんな姿を見ているうちに。



いつの間にか目で追うようになっていた。



けれど。



優斗は最初から分かっていた。



六花は西園寺家の令嬢だ。



自分とは住む敷地は一緒でも世界が違う。



将来はどこかの財閥。



あるいは名家。



そういった家の御曹司へ嫁ぐのだろう。



それは当たり前の未来だった。



だから。



想いを伝えようと思ったことは一度もない。



叶うはずがないと知っていたから。



ただ傍にいたかった。



幼馴染として。



執事として。



それだけで十分だと思うようにしていた。



社交パーティーでエスコートする時も。



旅行先で荷物を持つ時も。



送り迎えをする時も。



毎日顔を合わせる時も。



六花が笑っていてくれるなら、それだけで良かった。



本当に。



それだけで幸せだった。



だが。



今。



六花はいない。



屋敷のどこを探してもいない。



朝食の席にも。



図書室にも。



温室にも。



バイオリン室にも。



どこにもいない。



たった三日。



たった三日なのに。



屋敷全体から色が消えたような気さえする。



優斗は小さく息を吐いた。



そして机の引き出しを開ける。



中には一枚の写真が入っていた。



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