財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
その時だった。



「六花!」



聞き慣れた声が響く。



私は顔を上げた。



廊下の向こう。



曲がり角の先から誰かが走ってくる。



黒い執事服。



見慣れたよく手入れされた黒髪。



そして焦ったような表情。



優斗だった。



「優斗……」



私が名前を呼ぶよりも早く、優斗は駆け寄ってきた。



普段の優斗はもっと落ち着いている。



執事としての教育を受けているから、人前で走ることも滅多にない。



それなのに今はそんなことも忘れてしまったみたいに一直線にこちらへ向かってくる。



そして。



私の目の前で足を止めた。



「大丈夫か?」



開口一番、それだった。



私は少し驚いた。



「え?」



「旦那様に呼ばれたんだろ」



優斗の眉は心配そうに寄せられている。



その顔を見た瞬間。



胸の奥に張り詰めていた何かが少しだけ緩んだ。



道明寺家にいる間も何度か電話はしていた。



けれど。



やっぱり直接会うのは違う。



優斗の顔を見るだけで不思議と安心する。



私は少しだけ笑おうとした。



「大丈夫よ」



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